インフルエンザで有給の強制はNG?欠勤扱いや在宅勤務は?
従業員がインフルエンザにかかった場合、従業員が働きたいと言ったら簡単に欠勤させることはできません。
また、有給休暇を取得するかどうかは従業員本人の意思であり、会社が強制することもできません。
デイライト法律事務所の労働事件チームには、企業から、このようなインフルエンザ感染時の勤務に関するご相談が多く寄せられています。
このような場合の企業の労務管理について、労働事件に精通した弁護士が解説しますので、ご参考にされてください。
インフルエンザにかかったら休ませるべき?
インフルエンザは毎年、冬季に流行します。
他の病気よりも比較的感染力が高く、罹患すると症状が悪化しやすいため、冬場になると、会社を休む方々が出てきます。
このような場合、企業の人事労務担当者から「会社を休ませるべきでしょうか?」というご相談をよく受けます。
人手不足の中、簡単に休まれてしまうと、業務に支障が生じたり、他の従業員の負担が増加するなどの問題が生じるからです。
そこで、このような場合、法律上どうなるのか、という点について解説します。
「インフルエンザで出勤停止は当たり前じゃないか。」と感じる方が多いでしょう。
これは、学生時代、インフルエンザは通学禁止と先生や医師から言われていたことが影響しているのだと思われます。
しかし、法律上、通常のインフルエンザの場合、就労禁止とはなっていません。
通常とは、冬場に流行する季節性インフルエンザの場合です。
学校の場合は、学校保健安全法施行規則により、インフルエンザの場合、出席停止期間が設けられています。
なお、出席停止期間は「解熱後2日を経過するまで」(幼児の場合は「3日を経過するまで」)かつ「発症した後5日を経過するまで」となっています。
これに対し、会社の場合は、上記のような法律上の制限がありません。
これは、「働くことが労働者の権利」であり、よほどのことがないと法律上、制限できないという考え方が根底にあると考えられます。
就労が禁止されると、通常の労働者(※)の方は、給料が下がってしまいます。※完全月給制等ではなく、欠勤控除が行わる会社の場合
有給がある方は有給を使うという方法も考えられますが、それで複数日が消化されるので、従業員としては、「会社をできれば休みたくない」と考える方も多いと思われます。
したがって、季節性インフルエンザの場合、会社が出勤を命じても、それだけでは違法とはならないということになります。
なお、新型インフルエンザについては、エボラ出血熱などと同様に、通常の季節性よりも感染のリスクが高いため、法律上、就労が禁止されています。
第18条 都道府県知事は、・・・・新型インフルエンザ等感染症の患者・・・に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2 前項に規定する患者・・・は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。
また、労働安全衛生法は、事業主の責務としても、就業の禁止を義務付けています(第68条)。
したがって、新型インフルエンザについては、法律上も会社を休ませるべきです。
従業員が働きたいと言ったらどうなる?
上記のとおり、季節性インフルエンザの場合、社員を強制的に休ませる法的根拠はありません。
そのため、会社が命令によって、当該従業員を休ませると「使用者の責に帰すべき事由による休業」となり、休業手当(※)を支払う必要があります(労働基準法第26条)。
※労基法では賃金の60%で大丈夫ですが、民法上100%が原則(民法第526条第2項の危険負担。ただし、労使間の合意で危険負担は除外可能)。
インフルエンザのときに注意すべき労務管理のポイントとは?
在宅勤務・テレワークについて検討する
インフルエンザ感染者で、仕事をしたいという従業員がいる場合、自宅勤務・テレワークの是非について検討するとよいでしょう。
インフルエンザなどのときに在宅勤務を実施する会社と従業員のメリットとしては以下のようなものが考えられます。
- ① 仕事を休ませることによる業務への影響を低減できる
- ② 休業手当を支給する必要がなくなる
- ① 有給を消化しなくてよい
- ② 100%の賃金を受け取ることができる
なお、従業員が具合が悪いのに無理をして在宅勤務を実施するのはやめるべきです。
また、在宅勤務については、導入する上でのポイントがあるので注意が必要です。
自宅勤務の注意点についてはこちらをご覧ください。
パワハラに注意
季節性インフルエンザの場合、法律上、休ませる必要はありませんが、本人が休みたいと言っているのに、無理やり働かせることはできません。
インフルエンザに罹患しているのに、就労を強要したりすれば、パワハラ(※)となるおそれがあるので注意が必要です。
※不法行為(民法第709条)が成立して慰謝料の請求の対象となるという意味
また、インフルエンザでの欠勤を理由に、人事評価上、不合理といえるほどの不利益(降格や転勤など)を与えても同様と考えられます。
有給での消化は許される?
インフルエンザで休んだときに、後日、有給や代休で消化する例が見受けられます。
これらは、本人の希望により、実施するのであれば問題はありません。
本人にとっても、欠勤控除がないので望ましいと思われます。
しかし、本人が希望していないのに、会社が一方的に有給を消化させるのは違法と考えられます。
有給については、従業員本人の自由な使用が認められなければならないからです。
健康配慮義務に注意
季節性インフルエンザの場合、上司から療養するように説得しても、本人が働くと言い張った場合、上記のとおり、法律上、これを拒むことは難しくなります。
しかし、会社は、従業員に対して、健康配慮義務があります。
他の従業員がインフルエンザに感染することを回避するための措置をとるべきです。
そこで、このような場合、就業規則の規程が重要となります。
すなわち、就業規則の中で、法律上、就労が禁止される伝染病以外の病気でも、会社の判断で、就労を禁止できる場合があることを規定しておきます。
第〇〇条 会社は、次の各号のいずれかに該当する従業員については、その就業を禁止する。
①病毒感染の恐れのある感染症にかかった者
②心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく憎悪するおそれがあるものにかかった者
③前各号に準ずる疾病で、厚生労働大臣が定めるもの及び感染症予防法で定める疾病にかかった者
2 前項の規定にかかわらず、会社は、次の各号のいずれかに該当する者については、
その就業を禁止することがある。
①従業員の心身の状況が業務に適しないと判断したとき
②当該従業員に対して、国等の機関から、外出禁止又は外出自粛の要請があったとき
③前項第1号以外の感染の恐れのある疾病にかかった者又は疾病のため他人に害を及ぼす恐れのある者で、医師が就業不適当と認めたとき
3 第1項目及び第2項目の就業の禁止の間は無給とする。
就業規則は、労使間の権利義務を規律する根拠となります。
したがって、従業員は、就業規則を順守しなければなりません。
適切な就業規則を作成しておくことで、各種トラブルの防止が可能となります。
就業規則の重要性について、詳しくはこちらのページをご覧ください。
まとめ
以上、インフルエンザ感染と会社勤務の関係について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
通常のインフルエンザの場合、法律上は就労禁止事由となりません。
しかし、企業は、他の従業員の健康やその他の問題を十分考慮して、適切に労務管理を行う必要があります。
また、就業規則は出来合いのものではなく、会社にとって、適切な内容となっているかをチェックすべきです。
しかし、労務管理や適切な就業規則の作成には専門知識が必要です。
そのため、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。
デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。