福岡市が雇用特区に!グローバルスタートアップ国家戦略特区構想
政府は平成26年3月28日、国家戦略特区の第一弾として、雇用特区に福岡市を指定しました。
労働問題に密接に関わる内容なので、この件について、ご紹介したいと思います。
福岡市は開業しやすい?
福岡市が雇用特区に指定されたのは、開業率が全国トップであるからです。現在、日本の開業率は平均約4%ですが、福岡は約6.4%です。
これには、次の理由があげられています。
雇用を生み出すのに適した人材が豊富であること
出生率の低下により、日本の人口減少が深刻化する中、福岡市は、人口が増加しており増加率は全国トップとなっています。また、若者の比率、女性若者率も全国トップであり、その他、豊富な理系学生と留学生がいることも特徴です。
ビジネスコストが低いこと
福岡のオフィス賃料は、東京の3分の1以下であり、世界的に見ても賃料が低額です。
他方、都会でありながら、自然環境が豊かで通勤時間も短く、住みよかった都市ランキングでも上位に位置しています。
世界とつながるビジネス環境にあること
福岡は、国際線が18都市に就航しており、博多港は国際状況客数が全国トップを誇っています。
その他、福岡には、インターナショナルスクールや、多くの医療機関で外国語での受診対応が可能であるなどの特徴があります。
上記のような理由から、雇用特区を作り、将来的には開業率20%を目標としているようです。
では、福岡市が構想している「グローバル・スタートアップ国家戦略特区構想」の中身はどのようなものでしょうか。
特区構想の中身
これは、法人税の減免とともに、「雇用条件の明確化」を行なうことで企業誘致を進めるというものです。
減税は歓迎ですが、「雇用条件の明確化」というのが気になります。これは、一つは、外国人の在留資格要件緩和が含まれていますが、それだけにとどまりません。
福岡市の特区構想で打ち出されている雇用条件の明確化については、福岡市議会の一般質問の中で、「解雇ルールを明確にする事前型の金銭解決制度などを創業後の5年間に限り導入することで、正社員の雇用を促進する」と説明されています。
解雇については、労働基準法が解雇制限規定を設けるとともに、労働契約法が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものは無効」と規定しています。
つまり、解雇は、よほどのことがないと認められないとするのが法律なのです。
福岡市の特区構想は、その例外を作り出すものです。この解雇規制の緩和に対しては、働く者とその家族の生活不安を助長する恐れがあるなどの批判があります。
解雇自由は悪か?
しかし、そもそも解雇を自由にすることは、日本社会にとって好ましくないことでしょうか?
世界的に見て、日本ほど、解雇が認められない国は少ないと思います。
例えば、シンガポールは、国土が東京23区とあまり変わらない小さな国ですが、解雇は自由です。
しかし、東南アジア、南アジアのビジネスハブとして、急速な経済成長が続いています。
一人当たりのGDPは日本を超えており、世界でも上位に位置しています。また、国際競争力が非常に強い国であり、2011年の世界経済フォーラムの研究報告書において、世界第2位の国と評価されています。
さらに、富裕世帯の割合が世界で最も高く、およそ6世帯に1世帯が金融資産100万ドル以上を保有しているとされています。
法人税も17%と低く、また、国が外資系企業の受け入れに力を入れているため会社の設立も簡単です。
そのため、日本を含めた外資系企業は、ビジネスチャンスを求め、シンガポールへ積極的に進出しています。
そして、シンガポールでは、日本と違って終身雇用制が当然とは考えられておらず、優秀な人材がキャリアアップを図って様々な企業に転職し、経験を積んでいきます。他の先進国を見ても、近年は解雇を厳しく制限するのではなく、人材の流動を重視しているようです。
そもそも終身雇用制は、高度経済成長期において生み出されたものであり、日本の歴史の中では、景気がよかった時代の流行りにすぎず、普遍的な制度ではありません。
すなわち、明治時代に制定された民法の条文では、契約自由の大原則から、労働者、使用者のいずれも基本的には2週間前に雇用契約の解消を申し入れることができます。
ところが、戦後の高度経済成長期において、裁判例において解雇権濫用の法理によって、解雇を制限する傾向が見られるようになり、近年、労働契約法において解雇の制限が明文化されました。
つまり、終身雇用制は、あらゆる時代に求められる、普遍的な制度ではないということです。
また、終身雇用のメリットである、雇用の安定性という点に関しては、現在では、反対に「若年層の就労に不利に働いている」との指摘もあります。つまり、終身雇用制は、その慣行を既得権益とする中高年にとっては、雇用が守られますが、景気が悪化すれば非正規の契約雇用しかない若年層にしわ寄せが及ぶと考えられています。
このようなことから考えると、解雇の厳しい制限は、本人にとっても、その国の経済の発展にとっても、最善とまでは言い切れないのではないでしょうか。
もちろん、不当な解雇によって、労働者に損害が生じるような場合は、損害賠償は認められるべきですが、雇用契約の継続の問題とは切り離して考えるべきと思われます。
現在の日本の状況において、解雇を厳しく制限することが果たして妥当なのかどうか、今一度考えてみる必要があると思われます。
問題への対応策
雇用特区の妥当性については、賛否両論あるところですが、いずれにせよ、新しい制度を作るにあたっては、様々な問題の発生が予想されます。そこで、労使間の紛争が生じないようにする「雇用労働相談センター」が設置されるようです。そして、福岡市に進出する海外企業やベンチャー企業などは、このセンターを利用して自社の雇用契約や労務管理が適切か否かを確認できるようになるとのことです。