弁護士コラム

技能実習の認定取消しが相次ぐ

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

大手企業含む4社が技能実習計画認定取り消しに

法務省と厚生労働省は、2019年1月25日、外国人技能実習生を受け入れていた4社について、技能実習計画の認定を取り消したことを明らかにしました。

この4社には、三菱自動車工業株式会社とパナソニック株式会社という日本を代表する大企業が含まれており、マスコミも相次いで報道をしています。

 

技能実習計画が取り消しとなった原因とその影響

技能実習計画とは?

技能実習生を受け入れるためには、技能実習計画を作成し、計画の認定を受けなければなりません。この認定は、受け入れる技能実習生ごとに一人ずつその都度作成しなければなりません。

技能実習計画と異なる業務を行わせていた可能性

従業員今回公表された事実によれば、三菱自動車は認定を受けていた技能実習計画で行うこととしていた必須業務である「溶接作業」を技能実習生に行わせず、別の業務を行わせていたとされています。

技能実習計画には、技能実習生に行わせる予定の対象業務及び作業を記載しなければなりません。これは、技能実習が無制限にあらゆる業務を対象としているわけではなく、一定の業務に限って認めているためです。

三菱自動車の問題が発覚した経緯は不明ですが、技能実習生を受け入れる場合、技能実習計画を立てて認定を受けさえすればよいわけではありません。すなわち、受け入れた技能実習生の実習状況について、毎日、指導した内容などを記入し、指導者のサインをした技能実習日誌を作成しておかなければなりません。

そして、毎年5月31日までに技能実習の実施状況について、外国人技能実習機構へ報告することになっています。

こうした日々作成しなければならない記録と技能実習生の実際の現場での話が食い違っていたのではないかと推測されます。

技能実習については、技能実習法16条によって、一度認定された技能実習計画の認定を取り消すことができるとされており、今回の三菱自動車の事例は、「実習実施者が認定計画に従って技能実習を行わせていないとき」(同条1項1号)に該当すると判断されています。

認定取り消しによる影響

そして、技能実習計画の認定の取消しは、原則として対象となる実習実施者に在籍している全ての技能実習生が実習を継続できなくなります。そのため、三菱自動車では、27人もの技能実習生の認定が取り消されてしまいました。

技能実習生の側からしても、渡航費用などのコストを割いて、はるばる日本に来たにもかかわらず、認定取消しで実習ができなくなるというのは不本意ではないでしょうか。

取消しを受けた実習生たちは、日本での実習の継続を希望するかどうかの意向を確認され、他の受入企業を探してもらうことになりますが、受け入れ先が見つからず、母国に帰らざるを得なくなる外国人が出る可能性もあります。実際に、三菱自動車の場合も、27人中24人がすでに帰国したという報道がなされています。

違法な時間外労働が原因で認定取り消しに

また、パナソニックが認定取消しとなったのは、三菱自動車とは少し理由が異なります。すなわち、パナソニックは、一部の工場で違法な時間外労働を労働者に行わせていたことが原因で、2018年に簡易裁判所で労働基準法違反として、30万円の罰金に処さられています。

技能実習法は技能実習を行うことができる技能実習者について、欠格事由を定めており、欠格事由に該当すれば、技能実習生を受け入れることができません。この欠格事由の一つに、過去5年以内に労働法令に関し、不正または著しく不当な行為をした者ということが挙げられています。

パナソニックは罰金刑が確定したことによって、この欠格事由に該当すると判断されたため、認定が取り消されてしまいました。この取消しによって、82人もの技能実習生に影響が及ぶことになりました。

また、パナソニックと同じ理由で認定が取り消された企業が1社あり、こちらは24人の技能実習生の認定が取り消されています。

4社のうちのもう1社は、企業の役員が相続税法違反の事実で懲役1年の実刑判決を受けたことが、「禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者」に抵触したため、技能実習計画が認定取消しとなりました(技能実習法10条1号、11号)。

一度認定が取り消された企業は5年間は技能実習生を受け入れることができない

注意一度認定が取り消された企業については、取消しから5年間は欠格事由があるとされており(技能実習法10条6号)、今回取り消された4社は、向こう5年間は新たに技能実習生を受け入れることができなくなります。

加えて、2019年4月1日に迫った入管法改正で新たに認められる「特定技能」の在留資格についても、技能実習と同様に当該在留資格の外国人を受け入れることができないことになると見込まれています。

こうした技能実習計画の認定取消しは、1か月前の2018年12月にも3社発生しており、この2か月で認定を取り消された企業は7社に上っています。

昨年からマスコミにも多く取り上げられるようになった、入管法改正、技能実習については、今後も動向を注目しておくことが必要です。




  

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