マタハラとは?定義、言葉の例や対処法【弁護士が解説】
マタハラとは、マタニティ・ハラスメントの略です。
妊娠・出産・育児に関し、女性労働者が職場で受ける不当な取扱い(降格、解雇、雇い止め等)や嫌がらせを受け、就業環境を害されることをいいます。
目次
マタハラとは?
マタハラとは、マタニティ・ハラスメントの略で、妊娠・出産・育児に関し、女性労働者が職場で受ける不当な取扱い(降格、解雇、雇い止め等)や嫌がらせを受け、就業環境を害されることをいいます。
企業にはセクハラやパワハラと同じくまたハラについても、これを防止するための施策など取り組みが必要になります。
この記事では、マタハラとは何か、マタハラに関する法律上のルール、マタハラへの具体的な対応、マタハラ問題への対応のポイントについて、弁護士が解説をしていきます。
マタハラとは、マタニティ・ハラスメントの略で、妊娠・出産・育児に関し、女性労働者が職場で受ける不当な取扱い(降格、解雇、雇い止め等)や嫌がらせを受け、就業環境を害されることをいいます。
なお、マタニティ(=妊娠中の)・ハラスメント(=嫌がらせ)というのは、和製英語で、欧米では、妊娠差別を指す”Pregnancy Discrimination”という言葉が使われるのが一般的です。
また、法令では、マタハラという表現は使われておらず、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」という表現になっています。
マタハラとパタハラとの違い
マタハラと似た用語でパタハラという言葉が使われることがあります。
パタハラとは、パタニティ・ハラスメントの略で、これも和製英語です。
パタニティとは父性という英語です。
具体的には、父親が育児休業制度等を活用することに対する不当な取扱い(降格、解雇、雇い止め等)や嫌がらせのことを指します。
女性に対する妊娠・出産・育児に関するハラスメントがマタハラ、男性に対する育児に関するハラスメントがパタハラということになります。
マタハラを規制する法律として、男女雇用機会均等法、育児介護休業法が挙げられます。
また、パタハラを規制する法律としては、育児介護休業法が挙げられます。
各法によって、マタハラ、パタハラがどのような規制を受けるかは、以下で詳しく説明します。
マタハラの種類と事例
マタハラには、大きく2つのタイプがあります。
制度等の利用への嫌がらせ型
出産や育児に関する制度の利用を阻害する言動が「制度等の利用への嫌がらせ型」になります。
制度としては、以下の表のとおりですが、典型的なものとしては、産前産後休暇(労基法65条)、育児休業(育児介護休業法9条)、時短勤務制度(育児介護休業法23条)等があげられます。
また、出産特有のものではありませんが、有給休暇の利用をこのタイミングで使用することへの嫌がらせもマタハラになりえます。
- ① 産前休業
- ② 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
- ③ 軽易な業務への転換
- ④ 変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
- ⑤ 育児時間
- ⑥ 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
- ① 育児休業
- ② 介護休業
- ③ 子の看護休暇
- ④ 介護休暇
- ⑤ 所定外労働の制限
- ⑥ 時間外労働の制限
- ⑦ 深夜業の制限
- ⑧ 育児のための所定労働時間の短縮措置(※就業規則で措置を講じることが必要)
- ⑨ 始業時刻変更等の措置(※就業規則で措置を講じることが必要)
- ⑩ 介護のための所定労働時間の短縮等の措置(※就業規則で措置を講じることが必要)
無意識であったとしても、制度の利用を阻害するような言動は、この類型に該当し、マタハラになります。
なお、業務分担や安全配慮の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものは、マタハラにはあたりません。
例えば、休業時期の調整が可能かを労働者に打診することは、客観的にみて、業務上の必要性にも届く言動といえるので、マタハラにはあたりません。
他方で、打診の域を超えて、強要と評価できる場合には、マタハラにあたります。
以下、具体例です。
⇒育児休業は育児・介護休業法の制度
産前の検診のため休業を申請した労働者に、「病院は土曜日もやっているよね?勤務時間外に行って。」等と言い、産前休業をとりにくくする。
⇒産前休業は男女雇用機会均等法の制度
育児のための時短勤務者に対して、「会社が忙しい時期に楽でいいよね。」と嫌味を言う。
⇒育児のための時短勤務は男女雇用機会均等法の制度(※就業制限で定めている場合)
状態への嫌がらせ型
妊娠や出産に伴い就業状況に変化が生じますが、それに対して、解雇等の不利益な取扱いを示唆し、嫌がらせを行い、労働者の就業環境を害する行為が、「状態への嫌がらせ型」になります。
状態とは、以下を指します。
- ① 妊娠したこと
- ② 出産したこと
- ③ 産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
- ④ 妊娠又は出産に起因する症状により、労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
- ⑤ 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
例えば、妊娠中は、いつ休むか分からないから等と仕事を全く与えなかったり、会議のメンバーから一律に外す等という行為がこれに該当します。
ただし、業務上の必要性に基づく言動は、マタハラにはなりません。
具体例としては以下のとおりですが、要するに、「妊娠・出産労働者のために配慮する」という視点があるかがポイントです。
状態への嫌がらせ=マタハラ | 状態への嫌がらせではない=マタハラではない |
---|---|
業務上の必要性がない不合理な言動
|
業務上の必要性に基づく言動
|
マタハラとなる言葉の例
マタハラは、無意識の言動が該当してしまう可能性が高いハラスメントの類型になります。
そこで、マタハラに該当する可能性がある具体的な言葉をご紹介いたします。
妊娠の報告に際して
「おめでとう。でも、こんな忙しい時期に困ったなあ。繁忙期なので、欠員が出ると困るんだよね。」
このように、「おめでとう。」と述べたあとに、つい本音をボヤきたくなるかもしれませんが、それを口にしてしまうと、産休等の制度の利用を阻害する言動として、マタハラに該当する可能性があるので注意しましょう。
出産、育児のための休暇の申請に対して
「今は休まれると困る。」「休むなら辞めてもらうしかないね。」「妊婦健診は、(出勤日の平日ではなく)土曜日に行けばいいじゃない。」
このように、休暇の取得を困難にする発言も、制度の利用を阻害する言動としてマタハラに該当します。
業務体制の見直しや人員を増やす等で欠員に備えることが大切です。
このように、女性は家庭を優先すべきだ等という価値観を押し付けるような言動は、妊娠という状態に対する嫌がらせ行為の一種として、マタハラになりえます。
このように、一方的に仕事内容を変更(配置転換)することは、たとえ、良かれと思ってのことでも、妊娠という状態に対する嫌がらせ行為の一種として、マタハラになりえます。
一方的に行うのではなく、本人とよく話し合いを行い、納得を得たうえで行うことがハラスメント対策として重要です。
マタハラの基準とは
マタハラも、パワハラ、セクハラと同じく、3つのレベルに分けることができ、レベルが重くなるほど、社会的責任も重くなります。
①Level 1
先ほど、ご紹介した2つの類型(制度等の利用への嫌がらせ型、状態への嫌がらせ型)に該当すると、男女雇用機会均等法や育児介護休業法の義務違反になります。
これにより、行政から助言、指導、勧告を受けることがあり、勧告に従わない場合には、企業名が公表されたり、過料が科される等の不利益があります。
参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e-Gov法令検索
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov法令検索
これがレベル1です。
②Level 2
労働者に対する嫌がらせが、1回の単発の発言に留まらず、しつこく繰り返され、労働者が病んでしまう等、法的に受任される限度を超える場合には、その行為は、民法上の不法行為(民法709条)になります。
当該嫌がらせを行った行為者のみならず、会社も使用者責任(民法715条)を問われます。
③Level 3
さらに労働者に対する嫌がらせがエスカレートし、例えば、不特定多数の全社員の前での嫌がらせに発展したり、SNS等のネットで発信されたりする場合には、その嫌がらせ行為は、刑法上の侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(刑法230条)に該当し、逮捕や起訴される可能性があります。
侮辱罪と名誉毀損罪の違いは、事実の摘示があるかどうかです。
以下のように、法定刑に違いがあり、侮辱罪より名誉毀損罪の方が重い罪です。
- 侮辱罪(刑法231条)
→拘留又は科料 - 名誉毀損罪(刑法230条)
→3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
事実を摘示した嫌がらせであれば、名誉毀損罪に該当する可能性があります。
マタハラのレベル | 類型 | 責任 | 効果 |
---|---|---|---|
①Level 1 |
|
男女雇用機会均等法 育児介護休業法 の義務違反 |
|
②Level 2 | ①の嫌がらせが、受忍限度を超えているほど悪質な場合 | (①に加えて) 民事上の責任 |
民事上の不法行為責任 |
③Level 3 | ①、②の嫌がらせが、全社員の前でなされたり、ネット掲示板に書き込まれる等、不特定多数人に対してなされた場合等 | (①、②に加えて) 刑事上の責任 |
侮辱罪、名誉毀損罪 |
事業者は注意!マタハラの法律
妊娠や育児等を理由とした不利益な取り扱いは禁止
従業員の妊娠・出産、育児休業等を理由として、会社がその従業員に不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
参考判例:最高裁判所平成26年10月23日
このような場合、厚生労働大臣から会社に対して勧告書が出されます。
勧告書が出されたにもかかわらず、是正がなされないと、企業名が公表されることとなります。
また、従業員から会社に対して損害賠償請求等がなされる等のリスクもあるため注意してください。
以下、具体的に解説していきます。
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い
男女雇用機会均等法9条3項は、女性労働者の妊娠・出産等の厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇等の不利益な取扱いを禁止しています。
禁止される不利益取扱いの具体例は、厚労省が発表している「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」に示されています。
引用元:労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針|厚生労働省
以下、厚生労働省令で定める事由と、具体例を示します。
- 1 妊娠したこと。
- 2 出産したこと。
- 3 産前休業を請求し、若しくは産前休業をしたこと又は産後の就業制限の規定により就業できず、若しくは産後休業をしたこと。
- 4 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、又は当該措置を受けたこと。
- 5 軽易な業務への転換を請求し、又は軽易な業務に転換したこと。
- 6 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと。
※「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻(にんしんおそ)、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいいます。 - 7 事業場において変形労働時間制がとられる場合において1週間又は1日について法定労働時間を超える時間について労働しないことを請求したこと、時間外若しくは休日について労働しないことを請求したこと、深夜業をしないことを請求したこと又はこれらの労働をしなかったこと。
- 8 育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと。
- 9 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと、坑内業務に従事しない旨の申出若しくは就業制限の業務に従事しない旨の申出をしたこと又はこれらの業務に従事しなかったこと。
- 1 解雇すること。
- 2 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- 3 あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 4 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 5 降格させること。
- 6 就業環境を害すること。
- 7 不利益な自宅待機を命ずること。
- 8 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 9 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 10 不利益な配置の変更を行うこと。
- 11 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
育児休業の申出・取得等を理由とする不利益取扱い
育児 ・ 介護休業法第 10条等では、育児休業等の申出・取得等を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。
禁止される不利益取扱いの具体例は、厚労省が発表している「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」に示されています。
引用元:子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省
以下、不利益取扱い禁止の対象となる制度と具体的な不利益取扱いの例を示します。
-
- 育児休業(育児のために原則として子が1歳になるまで取得できる休業)
- 介護休業(介護のために対象家族1人につき通算93日間取得できる休業)
- 子の看護休暇(子の看護のために年間5日間(子が2人以上の場合10日間)取得できる休暇)
- 介護休暇(介護のために年間5日間(対象家族が2人以上の場合10日間)取得できる休暇)
- 所定外労働の制限(育児又は介護のための残業免除)
- 時間外労働の制限(育児又は介護のため時間外労働を制限(1か月24時間、1年150時間以内))
- 深夜業の制限(育児又は介護のため深夜業を制限)
- 所定労働時間の短縮措置(育児又は介護のため所定労働時間を短縮する制度)(※就業規則で措置が講じられていることが必要)
- 始業時刻変更等の措置(育児又は介護のために始業時刻を変更する等の制度)(※就業規則で措置が講じられていることが必要)
- 1 解雇すること。
- 2 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- 3 あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 4 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 5 就業環境を害すること。
- 6 自宅待機を命ずること。
- 7 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
- 8 降格させること。
- 9 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 10 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 11 不利益な配置の変更を行うこと。
- 12 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
厚労省の指針「事業主が講ずべき措置」
職場におけるハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置が、厚生労働大臣の指針に定められています。
事業主は、実施が「望ましい」とされているものを除き、これらを必ず実施する必要があります。
企業規模や職場の状況などによって適切な実施方法を選択できるよう、具体例を示しますので、ぜひ参考にされてください。
なお、派遣労働者に対しては、派遣元だけではなく、派遣先事業主も措置を講じなければなりません。
また、ただ単に、指針で定められているから、形式的に措置を講じたというだけでは、問題の解決になりません。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景には、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動(他の労働者の妊娠、出産等の否定につながる言動や制度等の利用の否定につながる言動です。単なる自らの意思の表明を除き、本人に直接行わない言動も含まれます。)が頻繁に行われるなど、制度等の利用や利用の請求等をしにくい職場風土や、制度等の利用ができることの周知が不十分であること等が考えられますので、これらを解消していくことが、職場におけるハラスメント防止の効果を高める上で重要です。
指針では、4プラス1の事業主が講ずべき措置が記載されていますので、整理して、ご紹介いたします。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容・妊娠・出産等、育児休業等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ること
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントがあってはならない旨の方針・制度等の利用ができること
を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
周知・啓発は、例えば、労働者のポータルサイトで行う、労働者に一斉にメール送信する、ポスターの掲示・研修を行う等で行います。
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定めること。
- 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応すること。
③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
- 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
- 再発防止に向けた措置を講ずること。
④職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
- 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。
妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つことを周知・啓発すること。
マタハラは、業務量が多い場合等、人手不足の職場で生じやすい類型のハラスメントです。
そのため、人を雇う等、マタハラの原因や背景となる要因を解消していくような措置が必要です。
プラス1:併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
マタハラ加害者への対応法
マタハラの加害者への対応は、パワハラの加害者への対応と基本的には同一で、実態調査が大切です。
例えば、マタハラを被害申告された上司は、業務上の正当な理由がある言動だったのかもしれません。
また、部下が、その上司に個人的な恨みや嫌いという感情があり、人一倍大げさに反応しただけかもしれません。
このような可能性も考えられるため、マタハラの相談、申告があった場合には、まずは実態調査を行い、客観的な事実の把握に努める必要があります。
言い分が食い違う箇所はどこなのかを見極め、食い違った箇所について適切に認定するような証拠はないか(メール、LINE、業務で使用するチャットアプリ等はないか、目撃証人はいないか等)という手順が大切です。
パワハラ加害者への対応について、こちらをご参照ください。
また、ヒアリングの参考になる事情聴取書の書式については、こちらをご参照ください。
マタハラ被害者から相談を受けたら
マタハラの被害者から相談を受けた場合、加害者への対応法で記載したとおり、当事者双方にヒアリングを行い、できるだけ客観的な証拠や目撃証人から、マタハラの事実の有無を認定することになります。
その際に、被害者のケアは大切です。
まずは、会社(ハラスメント相談窓口)が、よく被害者の話を聞いてあげましょう。
また、被害者は、加害者からの報復をおそれていますし、会社でその人と会うこと自体がストレスになります。
加害者と被害者を引き離すための配置転換を行うことは、被害者の心理的ダメージの回復に有用です。
心理的ダメージが深刻であれば、メンタルケアとして医療機関を紹介する等の対応もありうるでしょう。
会社が行うべきマタハラ問題への対策
マタハラ問題に適切に対応するには、厚労省の指針に定められている「事業主が講ずべき措置」を、具体的に行うことが大切です。
そこで、どうすれば良いかをポイントごとにアドバイスします。
①経営トップから方針を伝える
「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」するためには、経営トップから、マタハラに対する方針を労働者に対して表明することが有用です。
社内ポータルサイト、社内SNS、社内掲示板への掲示、労働者への一斉メール送信等が考えられます。
周知文書の例は、以下をご参照ください。
②法律事務所を外部相談窓口として設置する
「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」として、法律事務所を外部相談窓口として設置することが有用です。
マタハラの被害者は、会社の内部の相談窓口への相談では、プライバシーが守られないのではないか、加害者の味方をするのではないか等の不安が強いものです。
そこで、第三者の視点で相談対応が可能な法律事務所を外部相談窓口として設置することは有用です。
弊所でも、顧問先企業に向けて、弊所を外部相談窓口とするサービスを提供しています。また、日頃の顧問弁護士とは、別にセカンド顧問としてのサポートもしています。このようにすることで、セカンド顧問には、第三者委員会としての機能を持たせることもできます。
③社内規定を整備する
「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」として、社内規定の整備も大切です。
前述したように、マタハラによって、会社は、不法行為責任(使用者責任)を負わされる可能性があります。
損害賠償のリスクから会社を守るという観点から、マタハラ関連の社内規定を作成し、マタハラに詳しい弁護士のリーガルチェックを受けることが望ましいでしょう。
④社内研修の実施
「事後の迅速かつ適切な対応」に関連して、社内研修の実施が有用です。
社内研修は、労働者のマタハラに関する意識を高め、マタハラを未然に防ぐのに効果があるのは当然ですが、マタハラが生じてしまった後の再発防止措置のための措置としても有用です。
社内研修においては、より効果を高めるという観点から、顧問弁護士等の専門家に外部講師を務めてもらうのが良いでしょう。
⑤マタハラに詳しい弁護士に相談する
マタハラに該当するかの判断基準は、判例、法律、厚労省指針等の正しい理解と知識が必要なため、誤った判断を行ってしまうまえに、マタハラに詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
会社の顧問弁護士であれば、会社の状況に応じた対策の提案が期待できます。
まとめ
マタハラとは、妊娠・出産・育児等を理由として、女性労働者が職場で不当な取扱いや嫌がらせを受けることです。
不当な取扱いや嫌がらせというのは、具体的には、妊娠している労働者に退職するように促したり、出産を理由に解雇したり、育児により時短勤務をしている女性労働者に嫌味を言ったりすること等です。
妊娠・出産・育児等を「理由として」というのは、判例で、「契機として」という意味で解されており、具体的には、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内であれば、原則として不利益取扱いとして違法となります。
また、職場におけるマタハラを防止するため、事業主自身がマタハラについて正しく理解し、社内で研修を実施するなどの責務も定められています。
加えて、マタハラを防止するために必要な措置を講ずることも、事業主の法律上の義務です。
事業主は、マタハラ防止の方針を明確化し、従業員に対してその内容を周知・啓発しなければなりませんし、相談窓口を設置するなど社内体制を整備し、実際にトラブルが発生した場合には素早く、また適切に対応することが必要です。
さらに、マタハラが再発することを防ぐため、防止策を講じることも大切です。
加えて、原因や背景となる要因を解消するための措置を講じ、相談者のプライバシーに配慮しましょう。
労働者をマタハラの被害から守り、良好な職場環境を維持するのは、事業主としての責務ですので、環境の整備に本記事を役立ててください。
デイライト法律事務所の企業法務部には、マタハラ問題も含めて労働問題に精通した弁護士で構成される労働事件チームがあり、労働問題でお困りの企業の皆様を強力にサポートしています。
企業のご相談は初回無料でご相談いただけます。先ほど解説した防止対策や実際にマタハラが発生した場合の対応もアドバイスさせていただきます。
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