メンタルヘルス不調者に対して休職命令を出せますか?
メンタルヘルスに不調を抱え、仕事を十分に行うことができない従業員が、会社から指示しても医師による診察と治療を受けずに他の社員の業務にも支障を生じさせています。
この従業員に対して、休職命令を出すことはできますか?
従業員が医師の治療を受けず、出勤と欠勤を断続的に繰り返し、自己の業務も十分に行えず、他の従業員の業務にも悪影響を及ぼしている場合は、休職の発令は可能であると考えられます。
もっとも、紛争の事前防止のため、就業規則上、休職事由として「精神の疾患により職務に堪えないとき」や「業務上の必要性に基づいた休職を命じることがある」というような規定を入れることをお勧めします。
休職命令
休職は賃金が支給されない場合が多いため、休職命令が発動されることによる労働者の不利益は小さくありません。
そのため、メンタルヘルス不調にあるとはいえ、病状がそれほど重くなく、通院しながら勤務が可能である場合など通常業務に支障を生ずるまでもないような場合には、休職命令は合理性を欠き、無効となります(参照:東京高判平成7年8月30日)。
もっとも、メンタルヘルス不調により業務に支障を来たす場合には、就業規則に従い休職命令を出すことは可能です。
メンタルヘルス不調は、欠勤の継続だけではなく、出勤と欠勤が断続的であったり、無気力となり仕事に手がつかないなどの状態が続きます。このような場合に、使用者から従業員に対して休職命令を発することが考えられます。
このような場合、休職事由として、就業規則に「精神の疾患により職務に堪えないとき」や「業務上の必要性に基づいて休職を命じることがある」などの規定がある場合には、仮に従業員の欠勤が継続していないような場合であっても、その従業員を就業させることにより業務運営に与える不都合、本人・配偶者・親族等の受診に対する協力姿勢の有無等を総合勘案し、休職の発令をすることは可能であると考えられます。
就業規則に規定がない場合
それでは、就業規則に上記のような規定がない場合はどうでしょうか。
就業規則上、一定期間の欠勤の継続を前提とした規定しか置かれていないような場合、断続的な欠勤のみを理由として休職命令を発することは難しいといえます。
しかし、使用者は従業員の安全配慮義務を負っており、労働者が原に健康を害し、もしくは健康を悪化させるおそれがあると認められるときは、速やかに労働者を業務から離脱させて休養させる等の措置をとる契約上の義務を負っています(神戸地裁姫路支部平成7年7月31日)。
また、労働者が医師の治療を受けず、出勤と欠勤を断続的に繰り返し、又は自己の業務も十分に行えず、他の従業員の業務に悪影響を与えているような場合には、労働者の労務提供は不完全なものとして、使用者はそのような不完全な労務の受領を拒絶することができると考えられています(この場合、使用者は賃金の支払義務を負いません。)。
紛争の未然防止のための対策
このように使用者が、従業員の不完全な労務の提供の受領を拒絶し、賃金を支払わない状態は、実質的に欠勤と同視できるため、その状態が一定期間継続した場合には、そのことをもって私傷病による休職命令を発令することができると考えられます。
この点においても、労働者の労務の受領を拒絶できる程度の不完全な労務であるか否かは専門的な判断となります。
そのため、紛争の未然防止のため、私傷病の休職事由として、一定期間の「欠勤の継続」のみならず、「精神疾患により職務に堪えられないとき」や「業務上の必要性に基づいて休職を命じることがある」というような規定を設けておくことは労務管理上必要でしょう。
さらに、実際には、使用者が一方的に労務の受領を拒絶して休職命令を発令しても、その従業員の理解が得られていなければ、命令を無視して出勤し、会社の秩序を乱す行動をとるなど、さらに事態が悪化することも考えられます。
したがって、会社としては、まず本人や家族と面談し、十分な話し合いをしてから、引き続き医師の受診と治療を促し、本人を納得させた上で休職させるよう努めることが大切です。
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