業務命令に従わない問題社員の解雇は有効でしょうか?
業務命令に従わない問題社員を解雇したところ、労基署に相談に行ったようです。この場合の解雇は認められますか?また、この解雇の有効性について、労基署が判断できるのでしょうか?
従業員を解雇する場合は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければ、解雇権を濫用したものとして無効となります。
もっとも、解雇事由の存在については、行政機関である労基署は判断できず、裁判所において行われます。
解雇事由の存在
普通解雇の場合、まず、解雇事由が存在することが必要となります。
解雇事由は、「客観的に合理性」があり、「社会通念上相当」であることが必要です(労契法16条)。
従来、判例では、使用者による労働者の解雇について、「客観的合理性」「社会通念上の相当性」という要件が必要であると判示し、解雇を制限してきました。
そして、この裁判例は平成19年3月1日に施行された労働契約法において、次のように明文化されました。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(労契法16条)
そのため、解雇においてはこの要件を満たす必要があります。
もっとも、この労働契約法16条の該当性判断については、行政機関である労基署はできません。
したがって、解雇事由の存在について、労働者が納得いかず、労基署に相談したとしても、労基署が解雇の有効性を判断することはできません。
解雇事由
①労基署長の解雇予告除外認定を受けた場合
・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
・労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合(※)
②次の臨時的に使用する労働者を解雇する場合
・日日雇い入れられる者(雇用期間が1か月を超えた場合を除く。)
・2か月以内の期間を定めて使用される者(この期間を超えて雇用された場合を除く。)
・季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(この期間を超えて雇用された場合を除く。)
・試の使用期間中の者(雇用期間が14日間を超えた場合を除く。)
解雇予告の履行
解雇する場合、基本的に解雇予告が必要です。解雇予告は、少なくとも解雇の30日前に行わなければなりません(労基法21条1項)。
30日前までに解雇予告をしなかった場合は、30日以上の平均賃金を支払うか、予告してから30日が経過するまで解雇は成立しません。
ただし、下図に掲げる場合は、解雇予告も予告手当の支払も必要ありません(労基法20条1項但書・3項、同法21条)。
解雇予告等が不要な場合
※労働者の責に帰すべき事由について、行政解釈は労働基準法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものである場合に限定すべきとしており、具体例として、下図のケースをあげています(昭和23年11月11日基発第1637号、昭和31年3月1日基発第111号)。
労働者の責めに帰すべき事由
①原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
②賭博、風紀びん乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
③雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
④他の事業場へ転職した場合
⑤原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥出勤不良または出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合など
法令による禁止
解雇が法律で禁止されている場合かどうかを確認する必要があります。
例えば、労働基準法は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない」と定めています(労基法19条)。
したがって、業務中の事故で働けなくなった社員を休業期間中に解雇した場合、その解雇は無効となります。
このほか、解雇に関しては、法令上、いくつかの規制が設けられています。それを例示すると、下図のとおりです。
解雇が法律で制限されている場合
①業務上の負傷・疾病による休業期間、その後の30日間(労基法19条)
②産前産後休業の休業期間、その後の30日間(労基法19条)
③国籍等を理由にした差別的解雇の禁止(労基法3条)
④労基署等への申告を理由とする解雇の禁止(労基法104条)
⑤労働組合員であること等を理由とする解雇の禁止(労組法7条)
⑥性別を理由とする解雇の禁止(均等法6条4号)
⑦婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇の禁止(均等法9条)
⑧育児・介護休業取得等を理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法10条、16条)
⑨個別労働関係紛争に関し、あっせんを申請したこと等を理由とする解雇の禁止(個別労働紛争解決促進法4条、5条)
⑩公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇(公通法3条)
実務における留意点
裁判例においては、この解雇の事由である「客観的合理性」と「社会的相当性」の要件は、厳しく審査される傾向にあります。
すなわち、解雇した従業員から不当解雇であるとして訴えられた場合、よほどの事情がないと解雇が有効であると認められません。
したがって、解雇事由の存否については、訴訟リスクを踏まえて慎重に判断すべきです。
また、解雇予告をする場合、その方法について法律上は文書でも口頭でも構わないとされています。しかし、通知の有無や紛争に発展した場合を考慮し、文書で通知しておくことが望ましいでしょう。
文書については写しを保管しておくと良いでしょう。また、トラブルに発展しそうな場合は、被解雇者が確かに解雇予告を受け取ったことを証明するために、内容証明郵便を利用すると良いでしょう。
労基署対策については、労働問題に詳しい専門家にご相談ください。
当事務所の労働弁護士は、使用者側専門であり、企業を護るための人事戦略をご提案しています。
まずはお気軽にご相談ください。