弁護士コラム

妊娠中の退職合意を無効とした裁判例に学ぶマタハラ問題

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

妊娠中の退職合意を無効とした裁判例(平成29年1月31日東京地裁立川支部)に学ぶマタハラ問題

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妊娠中の退職合意を無効とした最新裁判例(平成29年1月31日東京地裁立川支部)について、労働問題専門の弁護士が解説します。
この裁判例で争点となった妊娠中の解雇に関する問題は、マタハラ問題の一種です。

マタハラとは

では、そもそも、マタハラとはなんでしょうか。

マタハラとは、マタニティハラスメントの略で、働く女性の妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的、肉体的な嫌がらせをしたり、妊娠・周産・育児などを理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要等の不利益な取扱いをしたりすることです。

平成27年11月に厚労省が発表した調査では、女性の正社員の約5人に1人、派遣社員の約2人に1人がマタハラの被害を受けたという回答を行っていることから、経営者の方は、自社でも生じる問題として認識しておく必要があります。

なお、平成29年1月1日より、改正男女雇用機会均等法、改正育児・介護休業法が施行されました。これに伴い、企業には、マタハラ防止のための必要な措置を講ずる義務が課されています。

判決

本件の判決は、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、判断基準を示しました。
その判断基準とは、「妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかを慎重に判断する」というものです。

 

そのうえで、本件では、

女性が産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかった
会社に残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかった

などと指摘し、そのような状態では、自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することは認められないと判断し、本件における退職合意は無効であるとして、会社に、本来であれば働けていた期間の給与及び慰謝料20万円の合計額(約250万円)を支払うよう命じました。

 

妊娠による解雇についてではありませんが、妊娠による降格については、最高裁が判断基準を示していました。平成26年10月23日最高裁第一小法廷判決は、「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たるが、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である」旨を判示しています。

このように、本件の裁判例が用いた基準は、上記の妊娠による降格の最高裁判例の基準を妊娠による解雇にも適用したものと評価できると思います。

 

マタハラ問題についての、前述の最高裁判例や、本件の裁判例が示した判断基準から、会社として押さえておかなければならないことは、妊娠を契機になんらかの不利益な処分を行う場合に、それが、自由な意思に基づく承諾と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければならず、それを主張立証しなければならないのは会社側という点です。

 

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本件のように、妊娠を契機に人事異動等を行う場合は、慎重に行う必要があります。

当事務所には、ハラスメントに注力した弁護士が在籍しており、出張研修等も行っています。

マタハラ問題については、当事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。

 




  

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