問題社員とは?特徴や対応方法を弁護士が解説!
問題社員とは、問題行動や能力不足等により、会社に悪影響を与える社員のことを言います。
問題社員の特徴は、業務命令に従わない、仕事を怠ける、セクハラ・パワハラを繰り返す、素行が悪い、協調性がない、能力不足など様々です。
それぞれの特徴に合わせて対応していく必要がありますが、基本的には、指導を徹底し、程度によっては懲戒処分を課すなどして毅然と対応する必要があります。
特にひどい場合には、解雇や退職勧奨によって会社を退職してもらう必要もあるでしょう。
以下では、問題社員に退職してもらいたい場合の対応方法や、面談時の注意点などについて詳しく解説していますので、参考にされてください。
目次
問題社員とは
問題社員とは、一般に問題行動や能力不足等により、会社に悪影響を与える社員のことを言います。
人材は競争力の源泉です。
したがって、多くの企業にとって社員は大切な財産です。
しかしながら、会社にとって、マイナスとなる言動を行う社員が存在するのも事実です。
また、いくら指導しても、同じような言動を繰り返したり、業務命令に従わない、いわゆる「問題社員」もいます。
このような問題社員を放置しておくことは、他の社員に悪影響を及ぼします。
悪貨は良貨を駆逐するといいます。
問題社員対策を怠ると、組織が崩壊すると言っても過言ではありません。
問題社員と一口に言っても、様々なパターンがあります。
以下、典型的なパターンをご紹介します。
問題社員の特徴
業務命令に従わない
上司の指示に従わない社員は問題社員の典型的な例です。
特に正当な理由がなく、業務命令に意図的に従わない場合、悪質性が高いといえます。
このような社員を放置すると、組織の規律を維持できなくなるおそれがあるため早急な対応が必要となります。
仕事を怠ける
このタイプの問題社員は、比較的に製造業、建設業等のブルーワーカーに多い傾向があります。
また、遅刻等が目立つ社員もこの類型に当てはまります。
このような社員が増えると、真面目に勤務している社員のモチベーションが下がるおそれがあります。
セクハラ・パワハラを繰り返す
このような問題社員は、ブルーワーカーだけではなく、むしろ、ホワイトカラーが多い大手企業に多く見られます。
この類型は、被害者が存在します。
また、その被害は深刻です。
そのため放置せずに早急に手を打つ必要があります。
セクハラ・パワハラ対策についてはこちらもごらんください。
逆パワハラとは、部下が上司にパワハラ行為をすることをいいます。
上司の適切な指導に対して、問題社員である部下が過剰に反応して、その上司に厳しい言葉や侮辱するような言葉を浴びせるようなケースです。
こうした状況を放置すれば、上司が萎縮してしまい社内の指揮系統が乱れてしまう恐れがあるため、会社は早急に対応する必要があります。
素行が悪い、私生活に問題(ギャンブル、不倫など)
この類型は、勤務状況ではなく、プライベートに問題があるだけなので、会社に関係がないようにも思えます。
しかし、関係者(債権者や不倫の被害者など)が会社に連絡したりすることがあるため、悪影響を及ぼす可能性があります。
また、社員同士の不倫の場合は懲戒事由に該当する可能性もあるため、会社としての対応が必要となります。
協調性がない
このタイプは、比較的個人の能力が高く、仕事ができる社員にも見られます。
しかし、会社の業務はチームとしての成果が求められることが多いため、いくら個人的な能力が高くても、協調性がなければ結果として会社の生産性は下がってしまいます。
能力不足
ミスを連発する、仕事が遅すぎる、効率が悪い、仕事を取れないなどの社員をいいます。
このタイプは、本人には悪気はないため、仕方がない側面もあります。
しかし、放っておくと、優秀な社員のモチベーションが下がることが懸念されます。
女性の問題社員の特徴
女性の問題社員の特徴としては、ちょっとしたことでセクハラと騒ぎ立てる、他の女性社員に嫉妬していじめや嫌がらせをするといった傾向があります。
男性社員が全く意図せず、しかも会話内容もセクハラとは思えないような内容に対してセクハラと指摘されては、職場内のコミュニケーションも取りづらくなります。
いじめや嫌がらせで特定の優秀な人材が流出するおそれもあるでしょう。
問題社員を生まないためには?
それでは、どのようにすれば問題社員の発生を未然に防止できるのでしょうか。
まずは問題社員が発生する原因を考えてみましょう。
問題社員が発生する原因
社員の性格や能力に起因する場合
問題社員の問題行動の大部分は、その社員の性格や能力等の特性に起因していると思われます。
例えば、自己中心的、無責任、傲慢などの性格は同僚などとの人間関係に悪影響を及ぼします。
また、注意散漫、業務処理能力が著しく低いなどの特性は会社が期待しているパフォーマンスを発揮できない原因となります。
このような社員の性格や特性は、問題社員の問題行動を引き起こす大きな要因になっていると考えられます。
アスペルガー症候群の特徴としては、相手の気持ちを思いやることができず、他人とのコミュニケーションがうまくできないなどが挙げられます。
アスペルガー症候群の従業員は、言われたことを、極端に受け取ってしまうことがあるため、注意指導方法を工夫する必要があるでしょう。
適応障害は、特定の状況や出来事がその人にとって大きな心理的負荷となり、うつ症状や身体的な不調が生じることです。
適応障害の社員に対しては、できる限り、面談をしてどのような状況が辛くなるのか、その原因は何なのかなどについて話し合うことが必要です。
話し合いの中で、会社に出社すること自体が負荷になっているのであれば、その社員のためにも退職という選択肢もあることを説明することが考えられます。
教育指導不足に起因する場合
問題社員の問題行動は、会社の不十分な教育指導によっても発生すると考えられます。
社員側の問題が大きい場合、どんなに教育指導を徹底しても、問題行動を完全に防ぐことはできません。
しかし、問題行動の程度を軽減することは可能と思われます。
問題行動を未然に防止するには?
上記を踏まえると、問題社員の問題行動の発生を未然に防止するために最も重要なことは、「問題社員に成り得る社員を採用しない」ことです。
教育指導は重要ですが、どんなに適切な教育指導を徹底しても、問題社員を採用した場合、その問題行動を完全に防ぐことは難しいと思われます。
問題行動の発生を無くすためには、そのような人材を採用しないということが根本的な解決法となります。
ただし、問題社員に成り得る社員を見極めるのは決して簡単ではありません。
しかし、採用時に注意することで、ある程度そのような人材の入社を阻止できます。
例えば、転職者の採用については、前職の在籍期間や離職理由は、見極めのための重要なポイントとなります。
問題社員は、職を転々とする傾向があります。また、離職理由が懲戒解雇のような場合は問題社員である可能性が高くなります。
その他、人材採用のポイントについては、こちらに詳しく解説していますので、参考にされてください。
問題社員を辞めさせることはできる?
問題社員の離職の方法としては、解雇、自主退職、合意退職の3つの方法が考えられます。
以下、それぞれの特徴について解説します。
解雇は可能?
問題社員の問題行動は、会社の業績の低下だけでなく、他の従業員の離職・士気の低下などの悪影響を及ぼします。
そのため会社としては、問題社員を解雇したいと考えるのが自然です。
しかし、日本の労働契約法は相手が問題社員であったとしても、簡単には解雇を認めていません。
解雇するためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という2つの要件を満たす必要があります(同法16条)。
詳しくは、後記において、具体的な裁判例をもとに解説しますが、簡単に言うと解雇はよほどの事情がないとできません。
そして、法律上解雇が認められるか否かの判断は、専門家でも難しく、会社が独自に判断するのは困難と思われます。
仮に法律上、解雇が認められたとしても、解雇した労働者から不当解雇と主張されて裁判で争った場合、会社は大きな負担を強いられます。
すなわち、労働裁判では、通常、その裁判に対応するための弁護士費用が必要となります。
また、裁判で戦うためには解雇の有効性を基礎づける証拠が必要となります。
その証拠資料を会社は準備して弁護士に提供しなければならず、これに対応する担当者の負担も相当なものとなります。
さらに、労働裁判は通常の民事訴訟よりも長期化する傾向にあり、平均審理期間は15.5ヶ月にも及んでいます。
引用元:2020年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情
したがって、基本的には解雇は避けた方が望ましいと考えます。
また、懲戒解雇については、普通解雇の場合以上にハードルが高く、解雇が認められる可能性は低くなります。
ただし、問題社員の非違行為が悪質な場合、会社の秩序を保つために懲戒解雇を検討すべき事案もあります。
例えば、問題社員のセクハラが悪質で、被害者がいるような場合があります。
このような場合、会社としては不当解雇の訴訟リスクを覚悟しても、被害者のために懲戒解雇を選択すべき状況も考えられます。
自主退職
自主退職とは、労働者自らが会社に対して退職の意志を表示することを言います。
自主退職は、通常、労働者が退職届を会社に提出するという形を取るため、解雇と比べて訴訟リスクは低くなるというメリットがあります。
しかし、労働者が自発的に退職届を提出しなければ、この方法は認められません。
問題社員が自発的に退職届を提出するという状況は通常想定しにくいかと思われます。
合意退職
合意退職とは、会社と労働者が退職について、合意することを言います。
通常、退職する代わりに、労働者側に何らかの特典(解決金など)を提供することが多いです。
自主退職しない労働者に対して、会社が退職を説得して成功した場合、合意退職という形で当該労働者を離職させることができます。
また、解雇と比べると訴訟リスクは低くなるため会社にとってメリットがあります。
しかし、法的に有効な合意書を準備しないと後々トラブルになる可能性があります。
そのため、合意書は労働問題に精通した弁護士に作成してもらうことをお勧めいたします。
なお、当事務所は合意退職書の雛形・サンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
合意退職を検討されている方はぜひご活用ください。
退職勧奨は認められる?
合意退職に関連して、会社から労働者に対して行う退職勧奨の適法性が問題となることがあります。
退職勧奨とは、会社から労働者に対して、退職するよう説得する行為をいいます。
退職勧奨は、労働者の自発的な退職意思の形成を促すための行為であり、雇用契約の合意解約の申し入れあるいは誘引のための行為とされていますので、そのこと自体は適法ですし、被勧奨者の人選や、被勧奨者によって退職金の割増しに差をつけることは使用者の裁量の範囲であると考えられています。
だからといってすべての退職勧奨が認められるわけではありません。
執拗な退職勧奨は、退職強要または公序良俗違反として違法となります。
したがって、退職した従業員から訴訟等を提起された場合、裁判所からは違法と判断されます。
退職勧奨の実施を検討されている企業は、労働問題に精通した弁護士に相談の上、進め方について助言を受けられることをお勧めいたします。
問題社員のやめさせ方のまとめ
上記の3つの方法について、メリットやデメリットをまとめると下表のとおりとなります。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
解雇 | 企業秩序を保つ 相手が反論しなければ迅速に解決できる |
訴訟リスクが大きい |
自主退職 | 訴訟リスクがほとんどない | 労働者自らが退職届を提出しない場合、離職させることができない |
合意退職 | 訴訟リスクが解雇よりは小さい | 解決金などの特典を準備しなければならない 退職勧奨が違法と主張される可能性がある |
問題社員の辞めさせ方について、くわしくは下記のページで紹介しています。
問題社員にお困りの方はぜひご覧ください。
裁判例に学ぶ問題社員の対応のポイント
上記のとおり、裁判所は、解雇について、よほどの事情がないと認めてくれません。
ここでは、具体的な裁判例を踏まえて、会社が解雇の際に注意すべきポイントをご紹介します。
①能力不足型:日本アイ・ビー・エム事件(東京地判H28.3.28)
当事者
Y社:Xを新卒雇用した会社
X:S62入社 営業部門所属
事実経過の概要
- S62 Y社はXを新卒雇用(期間の定めなし)・Xは営業職
- H1 Xはバンド6という職位(10段階の上から5番目)
- H5 Xはシステムインテグレーション営業推進に異動
- H18 Xは営業後方支援事務に異動し、ビットマネージャーという役職に就任
- H24 Yは業績不良を理由にXを解雇
Xの業績
H18以降
- 他部門から、業務に対する多数のクレームを受ける(作業ミス、業務の緊急度を重視していないなど)
- 他部門から5段階中最低評価を受ける
- PIP(業務改善プログラム)の対象となる
- 1ヶ月に26時間(1日当たり73分)の離席があった
- 業務量が他のメンバーの2分の1以下であった
- 新入社員レベルのネットワークに関する研修を受けたが、そのせいかを確認する試験で2回不合格となる(同じ部署でXのみ)
- 通常業務に間違いが多かったため、単純業務従事する
他方で
- 月間MVP賞や他部門からの感謝状を受けた
- PIP目標を達成した
結論と判決理由の概要
解雇無効
- H18以前は、バンド6に見合った業務ができていた
- H18以降も、複数の表彰、PIP目標達成などの業績改善に努力し、Y社も評価
- データベースの起票作業などの単純業務には問題なし
- 相対評価であるPBC評価が低評価であるとしても解雇の理由に足る業績不良とは言えな
- 大卒後25年にわたって勤務を継続し、配置転換もされ、職種や勤務地の限定がなかった
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
この能力不足が問題となった事例において、裁判所は労働者の業績評価の手法と業務改善の努力の有無を検討しています。
- 長期雇用か否か :長期雇用の場合、過去の職務も考慮される傾向
- 絶対評価か相対評価か:相対評価の場合、評価内容がそのまま解雇理由とはならない
- 担当可能な他の業務
- 職種の限定の有無 :限定がなければ他の職務があるかを考慮する
- 勤務地の限定の有無:限定がなければ転勤の可能性を考慮する
- 手続きについて :職種転換、降格、解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会付与などの手段を講じたか否かを考慮する
能力不足型の場合、会社は業績評価の内容や改善の機会の付与等がポイントとなります。
正社員の場合、業績評価については短期的なものではなく長期的に問題があるかどうかを確認しましょう。
また、教育訓練の有無とその効果についても慎重に検討する必要があるでしょう
②協調性欠如型:ネギシ事件(東京高判H28.11.24)
当事者
Y社:製造業、従業員25名(パート含む。)
X:H23入社 営業部門所属
Xの言動等
- 検品部門の部長等に対し、「期日までに完納できなかったらどうするのか。どう責任を取るのか」「仕事のやり方が遅い」などと命令口調で怒鳴った
- けんか腰の声を聞くと動悸がするという持病のあったパート従業員に対し、作業手順を理解していないとして突然怒鳴った
以降、同従業員にストレス性の胃痛が生じるようになる - 自分の質問に答えられなかったパート従業員を無視した
同従業員はストレスを感じて退社 - 休暇を取得する際に事前に休暇届を提出しなかった
- 自分宛ての電話以外は職場の電話に出ない
- 出勤時、ほとんどの従業員に挨拶をしなかった
Y社の対応
- H25以降、再三にわたってXを注意した
また、話し合いの機会をもち、言動が改まらない場合は辞めてもらうと話した
しかし、Xは言動を改めなかった - H26.3 Xに検品部門のある3階に立ち入らないよう指示した
しかし、しばらくするとXは3階に立ち入り、従業員を怒鳴った - H26.9 Xを普通解雇
結論と判決理由の概要
解雇有効(1審は無効)
- 職場環境を著しく悪化させ、Y社の業務にも支障を与えたから就業規則所定の解雇事由に該当する
- Xを雇用し続ければY社の業務に重大な打撃を与えるというY社の判断も首肯できる
- Y社は小規模であるから、Xを配転することは事実上困難であって解雇に代わる有効な代替手段がない
- Y社が再三にわたって注意、警告してきたにもかかわらず、Xをは反省して態度を改めることがなかった
第1審は、Xの言動についての代表者や従業員の供述の信用性を否定したが、控訴審は肯定した。
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
この協調性欠如・ハラスメント等が問題となった事例において、裁判所は労働者の業務改善の努力の有無、配転の可能性や懲戒処分等の有無を検討しています。
懲戒処分はなかったが、再三にわたって注意、警告してきた ➡ 懲戒処分はしなかったが、会社は改めるチャンスを与えていた
協調性欠如・ハラスメント等の場合、会社は労働者の業務改善の努力の有無、配転の可能性や懲戒処分等の有無を慎重に検討する必要があるでしょう。
また、この事案において、会社は1審で敗訴しています。敗訴の理由としては、会社が提出した供述書の信用性が否定されたことがあげられます。
控訴審では逆転できたものの、基本的には供述書のような主観的な証拠は証明力が弱く、役に立たない可能性があることを念頭に置き、できるだけ客観的証拠を集めるようにしましょう。
客観的証拠の集め方については後述の「問題社員への対応方法」に詳しく解説しています。
③金銭の不正請求事案:NTT東日本事件(東京地判H23.3.25)
当事者
Y社:NTT東日本
X:営業担当社員
事実経過の概要
- X S57.4 Y社に入社
- X 東京中央エリアの法人に対しる営業を行っていた。地下鉄等を利用した顧客を訪問
- X Y社に対し、H16.4〜H19.9までの42ヶ月間に、約171万円の旅費を申請して受領した
旅費は日報に基づいて申請されるべきものであったが、Xの申請と日報の記載には食い違いがあった - H19.10 Y社はXの旅費申請を過大請求と判断し、Xに対し、日報に基づくものに修正して再申請するように命令
- H19.12 XはY社に対し、正規の旅費は約80万円であり、差額の91万円を返納すると修正して再申請した
- H20.3 X始末書を提出「お客様との飲食代、工事立会いの際作業員への差し入れ、タクシー代」等の営業上の費用を、後日旅費として申請する方法で、約15万円の不正請求をしたこと、そのほかに実際には支出していない旅費約75万円の過大請求をしたことを認めた
始末書の記載内容「過誤請求により生じた交通費は(略)私事に流用してしまいました、これは、あるまじき行為であり業務遂行上の基本認識の欠如からきており、私の不徳のいたすところで弁解の余地もありません」 - H20.5 Y社はXを懲戒解雇
結論と判決理由の概要
懲戒解雇有効
- Xの主張:私的流用を行っていない
顧客訪問の際、営業に必要なファイルを携行しており、これが非常に分厚く、重いものであったことから、1日に複数の顧客を訪問する場合は、その都度、各顧客と会社とを往復する必要があり、これにより高額の旅費を要した
⇐裁判所:始末書の記載からXの主張を認めず - Xの主張:始末書で記載した正規の旅費約80万円については、日報のデータもそろっていない中、Xの旅費が高すぎるという決めつけに基づいて書かされた数字であり根拠がない
⇐裁判所:たしかに、推測に基づくものであるが、Y社は、通常の活動をしていれば旅費の月額は多くとも2万円には達しなかったはずであるという観点から上記再請求金額を認定しており、この判断過程は合理的である - Xは弁明の機会がなかったと主張
⇐裁判所:Xは始末書や再請求の内訳の作成過程を通じて、私的流用の有無、営業上の費用の額やその内訳について弁明の機会を付与されていた
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
この金銭の不正請求が問題となった事例において、裁判所は労働者の不正請求の内容を慎重に認定し、不正が認定された場合は懲戒解雇等の厳罰も許容しています。
不正請求等の事案の場合、会社は労働者の不正請求を立証できるよう証拠を収集すべきです。
また、立証可能な場合、懲戒解雇等の厳罰も認められる可能性があることを前提に処分を検討すると良いでしょう。
ただし、立証可能か否かの判断は専門家でなければ難しいと思われます。
また、懲戒解雇の場合、手続きの適法性を厳しくチェックされます。
すなわち、刑法に準じて罪刑法定主義、弁明の機会の付与、不遡及の原則、平等扱いの原則、相当性の原則などに注意が必要です。
そのため、不正請求の事案では、できるだけ問題社員対応に精通した弁護士に事前に相談されることをお勧めいたします。
問題社員への対応方法
問題社員の言動が悪質でない場合、会社はその社員を辞めさせるのではなく、まずは問題を改善して活かす方向で努力すべきです。
まずは以下のような手法で、問題点を改善できないか、検討しましょう。
①業務指導の徹底
②問題行動に対しては注意処分
③程度によっては懲戒処分を課す
これらの手法のポイントについて、解説します。
①業務指導の徹底
問題社員への業務指導のポイント
業務指導とは、問題社員などの業務上の問題点に対して、指導することをいいます。
問題点を明確に、かつ、適切な伝え方でフィードバックしてあげることが大切です。
このようにして、問題点が改善されれば、会社にとっても、本人にとっても1番です。
業務指導は、通常口頭でなされています。
しかし、問題の程度が比較的大きい場合、後々のトラブル防止のため、書面で指導すべきです。
書面にする際は、次の点に気をつけましょう。
本人や関係者から事情を聴取して事実を確認しておく
必要最小限の事実を記載する
こうすることで、問題点の相違を無くすことが期待できます。
裁判になった場合に提出することを意識する
業務指導で問題が改善できればいいのですが、功を奏さない場合、解雇を検討せざるを得ないことがあります。
解雇すると、不当解雇として訴えられるリスクがあります。
裁判では、解雇事由について、使用者側が立証しなければなりません。
すなわち、裁判で問題社員の問題行動を主張しても、労働者側が否認することが多くあります。
この場合、問題行動を立証しなければ解雇無効と判断されます。そのため、解雇せざるを得なかった事実を証拠として残しておくと安心できます。
業務指導書は、使用者が問題社員に対して指導してきたことを証明する重要な証拠資料となります。
そのため、裁判所に提出する可能性があることを踏まえて作成しましょう。
具体的には、業務指導書の記載内容自体から「問題・能力不足の内容や程度が特定できること」がポイントです。
また、書面の下部に、本人の署名をもらっておくと、「言った言わない」の不毛な争いがなくなるため、効果的です。
さらに、署名があると、指導内容自体が真実であったことを推認させる効果もあります。
当法律事務所は業務指導書の書式のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
ぜひご活用ください。
その他、以下の点もポイントですので、参考にされてください。
相手の職務、地位、指導時の反応によって記載内容を変える
能力不足を指摘する場合、次の点を明確に記載する
使用者が求める労働能力の内容・程度
当該社員が上記に未到達であること(実際の能力)
指導の際に証拠を残す
指導記録表とは、業務指導等を行った場合に残す記録をいいます。
問題社員を解雇して、後々裁判等に発展した場合、会社側に有利な証拠となる可能性があります。
この指導記録表の作成のポイントは以下のとおりです。
行為態様・業務に与えた影響詳細に記載する ➡ 裁判の際、当時の具体的な状況がわかる
実際に業務指導や注意を行った上司等が記録する
作成者がさらにその上位者(人事部長や社長)に確認してもらう ➡ 社内手続きが適正であることを証明できる。
時系列にファイリングしておく
当法律事務所は指導記録表の書式のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
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②問題行動に対しては注意処分
問題社員への注意ポイント
注意所は、指導しても改善が見られないとき、若しくは一定程度以上の問題行動を行った場合に作成し、交付します。
この注意処分のポイントは以下のとおりです。
今後も改善がないときは解雇も含めた人事上の対応をすることを明記する
業務指導書以上に裁判所に提出することを意識して作成する
当法律事務所は注意書の書式のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
③程度によっては懲戒処分を課す
問題社員への懲戒処分の注意点
セクハラ・パワハラや無断欠勤等の悪質な非違行為の場合、業務指導や注意ではなく、懲戒処分を課すことも検討しなければなりません。
ただし、この場合でも、懲戒解雇は非違行為が重大で、他に方法がない場合に限られます。
懲戒解雇は刑罰で言うところの死刑に該当するような極刑であり、よほどの事情がなければ困難です。
懲戒処分には、懲戒解雇の他に、譴責、戒告、停職、減給等の処分があります。
非違行為の内容や状況に照らして、妥当な処分としなければなりません。
例えば、何度も懲戒処分を受けている社員がいて、まったく改善がみられない場合、解雇を検討することも可能となるでしょう。
なお、この懲戒処分については、前提として、就業規則上の根拠が必要となります。
そのため就業規則には、非違行為の具体的な場合と対応する懲戒処分の内容を明確にしておくことが必要です。
就業規則の見直しについてはこちらをごらんください。
また、懲戒処分は、労働者に対する不利益処分ですので、手続が適正であることが必要です。
例えば、問題社員や目撃者、被害者等から言い分をヒアリングして、記録しておくことをお勧めしています。
当法律事務所は事情聴取書の書式のサンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
ぜひご活用ください。
問題社員との面談時の注意点
相手は録音している可能性がある
現在、スマホは多くの従業員が保有しています。
スマホには、ボイスメモなどの録音機能がついているものが多く、面談のときに、経営者や人事労務担当者の発言を録音される可能性があります。
実際に、裁判では、「経営者などから暴言を受けた」などと主張して、証拠の録音データが提出されることが多々あります。
このような状況のため、相手方がいくら問題社員であっても、決して怒鳴ったりせず、冷静に面談すべきです。
客観的な事実を示す
問題社員に対して、指導や注意をする際、性格など主観的なことを非難することがあります。
例えば、「協調性がない」「性格が暗い」「威圧的な態度をとる」などの評価的な言葉です。
しかし、これでは相手に反省を促すどころか、反発や逆上させてしまい、トラブルになる可能性があります。
このような主観的な評価ではなく、客観的な事実を示すことがポイントです。
例えば、「・・・・・という指示を実行しなかった。」「会議において、提案が一度もない。」などの事実です。
このような事実は、評価ではないため、問題社員であっても、受け入れざるを得ないでしょう。
記録に残す
上記の客観的な事実は、評価が入り込むことはありませんが、問題社員の中には、そもそもそのような事実がなかったなどと開き直るケースもあります。
仮に、このような対応を取られると、言った言わないの争いとなります。
そのようなトラブルを避けるために、問題社員の言動や対応のうち、特に重要なものについては、できるだけ記録に残すなどして証拠化しておくことがポイントとなります。
問題社員との面談のポイントは、具体的な状況によって異なります。
したがって、できる限り、問題社員対応に詳しい弁護士に事前にご相談の上、実施されることをお勧めいたします。
問題社員の末路〜トラブル解決事例〜
デイライトの労働事件チームが解決した問題社員の事例の一部をご紹介します。
ありもしないパワハラを主張する問題社員との合意退職を成立させた事例
この事例についてはこちらから御覧ください。
競合する目的で退職した従業員が持ち出した顧客情報を返却させた事例
この事例についてはこちらから御覧ください。
ハラスメントの主張を行う看護師の退職を実現した事例
この事例についてはこちらから御覧ください。
その他の解決事例はこちらから御覧ください。
問題社員対応の書式の書き方・見本一覧
問題社員等に対して、不利益な処分を行うと、後々裁判になった場合にその問題行動等について、会社側に立証責任が課せられることが想定されます。
そして、会社が立証できないと敗訴のリスクが生じます。
このようなトラブルを防止するために、適切な書類を作成して、保存しておくことが重要となります。
当事務所は問題社員に対応するための書式の雛形・サンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
問題社員対応にお困りの方はぜひご活用ください。
問題社員の同僚に困っている方
問題社員の振る舞いによって、直接的に迷惑を被るのは同じ職場で働いている同僚です。
現場レベルで発生している問題行動については、上司も把握しきれない可能性があるため、問題社員の問題行動については、適宜、上司に報告することが大切です。
報告するにあたっては、映像や録音、書面、複数の証言など問題行動の存在を根拠づける証拠があれば、それらの証拠も上司に提出するとより説得的な報告ができるでしょう。
まとめ
以上、問題社員への対応について、具体的に解説しましたがいかがだったでしょうか。
問題社員には様々なパターンがありますが、できるだけ採用時に見極めることとが重要となります。
問題社員を採用している企業が当該社員を辞めさせる場合、解雇の他に、自主退職、合意退職の方法があり、具体的な状況を踏まえてベストな選択をすべきです。
問題行動が悪質でない場合は継続的に指導や適切な注意・懲戒処分を行い、その社員を活かせるように努力する必要もあります。
これらの判断は専門的な知識やノウハウを必要とします。
そのため、労働問題に精通した弁護士にご相談の上、慎重に進めていかれることをお勧めいたします。
当事務所では、問題社員の対応について労働事件専門の弁護士が相談対応を行っています。
ご相談は、来所での相談に加え、電話相談、オンライン相談も行っており、全国の企業の相談に対応していますので、遠方でもお気軽にお問合せください。
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