退職証明書とは?使い方と自社で作成するためのテンプレート
退職証明書とは、従業員が会社を退職したことを証明するために、会社が発行する書類のことです。
退職証明書は、再就職や国民年金等の加入の手続きに必要となる重要な書類であり、労働基準法で会社には作成義務が課せられています。
このため、退職証明書を適切に発行できないと、労働基準法違反として違法となるおそれがあります。
そのようなことがないよう、退職証明書の適切な作成方法を正しく認識しておく必要があります。
この記事では、退職証明書について、その意味や用途、他の類似する書類との違いや作成上の注意点などを、弁護士が詳しく解説しています。
作成時に使えるテンプレートもご用意していますので、退職証明書の作成をご検討中であれば、ぜひ最後までお読みください。
退職証明書とは?
退職証明書とは、従業員が会社を退職したことを証明するために、会社が発行する書類のことです。
書類の標題は「退職証明書」ですが、実際には退職の事実だけでなく、在籍の期間や業務内容などの一定の事項が記載されます。
退職証明書の存在意義や記載上のルールについて、詳しく見てみましょう。
退職証明書の意義
ある会社に一定期間在籍していたことは、その従業員にとっては職歴としての意味をもちます。
その会社でどのような経験を積んできたかなどは、履歴書や職務経歴書という形で自作することも可能ですが、その場合はあくまで自己申告となってしまうため、内容の信憑性が保証されません。
そこで、会社の側から退職の事実が間違いないことを証明する書類として、退職証明書が発行されるのです。
退職証明書の法律の根拠
退職証明書は、従業員にとってかつてその会社に在籍していたこと、及び現在は在籍していないことを証明するためのものです。
退職証明書は、前職を退職済みであることの確認手段として、再就職する際に提出を求められることがあります。
また、転職以外にも、国民年金等に加入する際に、退職を証明する書類として必要となることもあります。
このため、退職証明書がスムーズに発行されないことがあると、従業員の転職や社会保険の手続きの妨げとなることがあり得ます。
このように、退職証明書は従業員の退職後の生活にとって重要な役割をもつものですので、前職が円満退職でないような場合などに、会社が退職証明書の発行を渋ることもないとは言い切れません。
そこで、そのようなことを防止し、退職した従業員が速やかに退職証明書を入手できるよう、労働基準法では会社に退職証明書の発行を義務づけています。
さらに、退職証明書の記載によって従業員に不利益を与えることのないよう、退職証明書には従業員の請求しない事項は記載してはならないとされています。
第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
- ② (略)
- ③ 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
- ④ (略)
退職証明書は公的な文書ではないものの、法律に基づいて作成する「証明書」ですので、ポイントを押えて適切に作成する必要があります。
退職証明書と離職票との違い
退職証明書も離職票も、従業員が会社を退職したという事実を記載した書類です。
両者の違いとしては、退職証明書が会社を退職したという事実を証明する一般的な書類であるのに対し、離職票は、退職証明書の代わりに職歴の証明に使用することもあるものの、主な用途としてはハローワークでの求職や失業保険給付の受給手続きに用いる点が異なります。
また、退職証明書は民間企業である会社が発行する書類であって公的なものではありませんが、離職票はハローワークが発行する公的な書類です。
離職票についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
退職証明書と在職証明書との違い
退職証明書と在職証明書では、証明する事項が異なります。
その名前のとおり、退職証明書は従業員が「退職」したことの証明であるのに対し、在職証明書は、従業員が現時点で自社に「在職」していることを証明する書類です。
在職証明書は、現在その会社において就労状態にあることを証明するものであり、主に保育園の入所の際などに使用します。
退職証明書と在職証明書のいずれも、会社が作成する証明書ではありますが、以上のように証明する事項が異なるほか、在職証明書は、退職証明書のように法律上の根拠を持たない一般的な文書であるという違いもあります。
退職証明書は使用期間や業務の内容など、記載すべき事項について法律上に定めがありますが、在職証明書の記載項目には制限がなく、会社の発行義務も定められていません。
在職証明書は、その従業員が自社の社員であることを証明する、という内容になるはずですが、職種や勤務時間など、それ以外の事項をどの程度記載すべきかについては、従業員と相談の上ニーズを汲み取って作成する必要があります。
退職証明書は何に使う?
退職証明書は、かつてその会社に勤務し、そして現在は退職していることを証明するためのものです。
退職証明書は労働基準法に基づいて作成されるものではありますが、特に用途が法律上限定されているわけではなく、このような事項を証明する目的であれば、一般的に利用することができます。
現実には、転職先への提出と、社会保険関連の手続きにおける利用が、主に想定される用途となります。
これらの場面では、前職を退職していることを証明することが求められることから、退職証明書が利用されるのです。
転職先への提出
退職証明書は、転職や再就職などの際に、新たな勤務先から提出を求められることがあります。
前にどのような会社に勤めていたのか、在職期間や賃金、その会社での業務内容といった事項は、履歴書や職務経歴書で確認することが一般的です。
もっとも、これらは従業員本人が作成したものであり、自己申告に基づきますので、記載内容が真実であるとは断定できません。
そこで、これらの書類と照合することにより記載内容の真偽を確認するという目的で、会社側の作成した書面である退職証明書の提出が求められることがあります。
もっとも、行政関係の申請のような公的な手続きとは異なり、民間企業における人材採用は、あくまで私的な活動です。
このため、決まった書類が一律に必要となるわけではなく、退職証明書の提出まで求めるかどうかは、個々の会社の判断となります。
絶対に提出が必要ということではありませんが、提出を求められることも多いと思われますので、転職の際にはあらかじめ準備しておくことが望ましいといえます。
社会保険関連の手続き
退職証明書は、国民年金・国民健康保険の加入手続きの際などに利用できる場合があります。
これらの手続きでは、通常は資格喪失証明書を提出しますが、退職証明書は前の会社を退職した日を証明することができるため、自治体によっては代用を認めているケースがあります。
また、この他、失業保険の給付手続きにおいて、原則としては離職票の提出が必要ですが、離職票の発行には時間を要するため、退職証明書を仮に使用することがあります。
退職証明書を自社で作成
退職証明書は、退職する従業員の求めに従って作成するものです。
従業員に要求されなければ作成する必要はありませんが、退職証明書は労働基準法に定められたものですので、法律の定めるところに従って適切に作成しなければなりません(労働基準法22条1項)。
退職証明書は公的な文書ではないとはいえ、一定の事項について会社の名前で証明するわけですので、その意味で重みのあるものといえます。
ここでは、退職証明書の実際の作成方法について、テンプレートや記載例などを交えながら解説します。
退職証明書の記載事項は比較的シンプルなものですので、自社対応で作成することも可能ですが、作成にあたっては気をつけるべきポイントも存在します。
退職証明書を作成される際は、法に則った適切なものを発行するためにも、ぜひこの記事の解説をご活用ください。
退職証明書の雛形
退職証明書は、労働基準法によって会社の作成義務が定められているものですが、書式に関しては特に決まった様式が定まっているわけではありません。
つまり、退職証明書の雛形を作成する際は、労働基準法で要求される記載事項を理解し、そこから逆算して雛形を準備する必要があるのです。
ここで、退職証明書の雛形となる標準例をご紹介します。
労働基準法で退職証明書の記載項目とされているのは、次の事項です。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(退職の事由が解雇の場合はその理由を含む)
ただし、退職証明書は、従業員の請求しない事項を記載してはいけません(労働基準法22条3項)。
つまり、退職するすべての従業員に対して、雛形の項目を機械的に埋めて交付すればよいといったものではないということです。
雛形は標準的なモデルではありますが、退職証明書はあくまで従業員の希望に沿って作成するものであることに注意し、参考としてご利用ください。
▼クリックすると拡大できます。
退職証明書の記載内容
上記の雛形に沿って、退職証明書の記載内容を解説します。
雛形は労働基準法が列挙する事項に基づいた標準的なものですが、従業員の請求しない事項については記載しないようにしてください。
宛名
宛名は、退職した従業員とするのが基本です。
退職証明書は、転職先や、国民年金等の加入のために市区町村などに提出するため、提出する先の会社や市区町村長に宛てて作成するべきもののように思えるかもしれません。
しかし、退職証明書の請求権を有するのは従業員本人であることや、提出先を問わずに使用できることから、通常は対象の従業員に宛てて作成するのが一般的です。
使用期間
使用期間とは、従業員が会社に勤務していた期間です。
採用日から退職日までという形で記入します。
社会保険の加入手続きに利用する場合には、特に退職日が重要な意味をもってきます。
人事記録などと照らし合わせながら、誤りのないように記入しましょう。
業務の種類
業務の種類は、「営業職」「経理事務」「研究開発」のように、従業員が在職時に従事していた業務を記載します。
退職時の業務のみを記載すれば足りるのか、これまで担当業務を網羅するのか、あるいは簡単な担当職名の記載のみとするか、ある程度具体的な業務内容の記載が必要なのかなどの点については、従業員によってニーズが異なります。
どの程度の記載が必要なのか、従業員の意向を聞き取った上で記入します。
その業務における地位
従業員の退職時の地位を記載します。
たとえば、「〇〇課長」「〇〇事業部営業担当主任」のように、役職名を記載するのが一般的です。
賃金
賃金は、従業員の退職時の給料を記載します。
たとえば、「月給300,000円」「年収6,500,000円」のように記載します。
退職の理由
退職の理由は、従業員が退職に至った理由を記載します。
雛形では想定される退職理由をあらかじめ列挙しており、たいていのケースはこれでカバーできると思われます。
また、これ以外の退職理由の場合には、「その他」の欄を利用して退職理由を記載します。
ただし、退職理由が懲戒解雇や勤務成績不良などネガティブなものである場合は、従業員が記載を望まないことも少なくないと思われます。
退職証明書には従業員の希望しない事項を記載してはいけないことを解説しましたが、退職理由は得に注意が必要な項目といえます。
退職証明書は、従業員の便宜のために発行するものであることから、これによって従業員に不利益を与えることがあってはなりません。
このため労働基準法では、退職証明書には、従業員が希望しない事項は記載してはいけないルールとなっています。
ただし、これは、希望しない事項を記載してはいけないということであり、希望する事項をすべて記載しなければならないということではありません。
労働基準法で退職証明書への記載が求められているのは、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由の5項目であり、それ以外の事由を記載する義務はないのです。
もっとも、あくまで法的には応じる義務がないだけであり、これら以外の事項を記載することが違法ということではありません。
従業員が希望し、かつ会社の事務上特段の負担にならないようであれば、任意の協力として記載してもよいでしょう。
退職証明書のテンプレートのダウンロード
【退職証明書】のひな形をダウンロード
退職証明書の4つの注意点
ここまで、退職証明書の概要や作成方法などについて解説してきました。
退職証明書は労働基準法という法律に則って作成されるものであり、注意すべきポイントがあります。
ここで改めて、退職証明書の注意点について確認します。
従業員の請求しない事項は記載しない
ここまでの解説でも都度触れてきましたが、重要なことなので再度確認しますと、退職証明書には従業員が記載を希望しない事項を記載してはいけません。
これは、従業員の便宜のための制度である退職証明書が、かえって従業員に不利益を及ぼすことのないようにという発想によるものです。
先にご紹介したテンプレートは、さまざまな状況に対応できるよう汎用性の高いものにしていますが、これを深く考えずに使い回してしまうと、従業員が希望しない事項まで記載してしまうといったことが起こり得ます。
そのため、退職証明書を作成する際は従業員と十分にコミュニケーションを取り、どのような情報を退職証明書に記載することを希望しているのかを明確に把握することが重要です。
退職証明書の作成のベースはあくまで従業員の希望となりますので、あらかじめ従業員に記載を希望する事項を聴取し、意向に沿う形で作成するようにしましょう。
従業員の退職から2年間は発行の義務がある
退職証明書を請求するのは、労働基準法で認められた権利です。
労働基準法では、賃金の請求権以外の権利は、時効により2年間で消滅するものとされています(労働基準法115条)。
第百十五条 (略)この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
退職証明書の発行請求権も労働基準法上の権利ですので例外ではなく、「行使することができる時から」、すなわち通常は退職時から2年間で、請求権が消滅するということです。
これは会社の側から見ると、従業員が退職してから2年間は、会社は退職証明書を発行する義務を負うことになるということができます。
もう退職した従業員だからといって人事情報の管理を怠っていると、退職証明書の発行を請求されたときに対応できないということにもなりかねません。
従業員の退職後も人事記録を適切に管理し、少なくとも2年間は退職証明書の発行に対応できるようにしましょう。
違反には罰則がある
退職証明書の発行の発行は労働基準法に定められた会社の義務であり、これに違反すると、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条1項)。
退職証明書は、会社にとってはたった1枚の紙切れのようにも思えるかもしれませんが、従業員にとっては、その後の生活やキャリアにもかかわってくる大変重要なものです。
退職証明書の発行は、違反に罰則が設けられている非常に重いものであることを認識し、慎重に対応すべきものであることを心がけましょう。
労働問題にくわしい弁護士に相談
退職証明書の発行について疑問があるときは、労働問題にくわしい弁護士に相談することも重要です。
退職証明書は上記のとおり、会社を退職した従業員にとって非常に重要なものである上、会社にはこれを発行する義務が罰則付きで課せられています。
このようなことから、もし退職証明書の作成に関して疑問や不安などがおありの場合は、労働問題にくわしい弁護士が頼りになります。
特に、昨今は転職市場も活況となっており、退職証明書を発行する機会も今後多くなっていくと考えられます。
退職証明書は、一見シンプルに見えても、従業員にとっては非常に重要な書類であり、労働基準法に則って適切に作成する必要があります。
このような重みを考えますと、専門家からの助言があるのとないのとでは、やはりその後の安心感が大きく違います。
次のステージに進む従業員を気持ちよく送り出すためにも、退職証明書についてお悩みのことがあれば、一度労働問題にくわしい弁護士に相談してみられることをおすすめします。
退職証明書についてのQ&A
退職証明書はどこでもらえますか?
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したがって、退職証明書が必要な事態が生じたときは、勤務していた会社の人事部などに連絡して発行を依頼しましょう。
前の勤務先がなくなっている場合はどうする?
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過去の給与明細などの証拠資料を集めた上、事情を説明した申立書のようなものを自身で作成するといった対応が考えられますが、個別の事情にもよるため、弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
退職証明書は離職票の代わりになる?
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ただし、離職票の発行に時間がかかるため、国民年金や国民健康保険の加入手続きをする際に退職証明書を離職票の代わりに使用することはあり得ます。
退職証明書はいつもらえますか?
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「遅滞なく」とは、「事情の許す限り早く」という意味であり、具体的な日数が決められているわけではありませんが、漫然と放置していると、発行を「遅滞」しているとして違法となる可能性があります。
このため、実務上は退職時に交付されることが多く、もし退職時にもらえなければ、発行を請求しましょう。
退職証明書はいつまでもらえますか?
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会社としても退職者の記録を永久に保管し続けるわけにはいきませんので、請求できる期間に制限があるのです。
もっとも、法的な請求権としては消滅していても、会社側の配慮によって発行してもらえる可能性はありますので、もし必要なのであれば、2年を過ぎていても一度会社に相談してみるとよいでしょう。
退職証明書は自分で作成してもいいですか?
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退職証明書は、会社を退職したという従業員の主張を裏付けるために会社が発行するものであり、従業員がみずから作成したのでは裏付けとならないためです。
退職証明書が発行してもらえなくて従業員が困るということを防止するため、労働基準法では会社に発行が義務づけられていますので、必要であれば会社に発行を依頼するようにしましょう。
まとめ
この記事では、退職証明書について、その意味や用途、他の類似する書類との違いや作成上の注意点などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 退職証明書とは、従業員が会社を退職したことを証明するために、会社が発行する書類のことであり、再就職や国民年金等の加入の手続きに必要となる。
- 労働基準法は会社に退職証明書の作成義務を課しており、従業員の退職から2年間は請求に対応できるよう人事情報を管理する必要がある。
- 退職証明書には、従業員が記載を希望しない事項を記載してはならない。
- 退職証明書は民間企業が作成するものであり、公的な書類ではないが、離職票の発行に時間を要する場合に、仮に代用可能な場合がある。
- 退職証明書の記載事項はシンプルであり自社対応での作成も可能であるが、労働基準法に則って適切に作成するためにも、労働問題にくわしい弁護士に助言を受けて作成することが有効である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。
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