会社の飲み会は「業務」なの?
目次
平成28年7月8日 最高裁判決
平成28年7月8日に、最高裁により会社の飲み会の送迎時に従業員が交通事故で死亡したことが、労働者災害補償保険法1条、12条の8第2項の「業務上の事由による災害」に当たるとされました。
業務災害に関する労災保険給付の対象
労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下、「災害」といいます。)が労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要します。
最高裁昭和59年5月29日判決によれば、「業務上の事由」といえるかの要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であるとされています。
平成28年7月8日 最高裁判例の事案
今回の事案は、会社の指示で提出すべき期限が翌日に迫った資料の作成業務を、会社の歓送迎会(以下、「飲み会」)の開始時刻後も事業場で行っていた従業員が、その作成業務を一時中断して歓送迎会に途中から参加した後、その作成業務を再開するため会社の所有している乗用車を運転して事業場に戻る際、飲み会に参加していた研修生らを送るため、研修生らの自宅に向かう途上で交通事故に遭い、この従業員が死亡したというものです。
この歓送迎会後の交通事故による死亡が、労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において発生した「災害」と認められました。
判例のポイント
もっとも、この判例では、会社の懇親会や歓送迎会というような「飲み会」を、「会社」の関係だからといって直ちに「業務上」としているわけではありません。
この判決において、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態であったといえるかの認定で重視されたのは、「会社が、その従業員に、職務上、その行動をとることを要請したものということができるか」という点であると考えられます。
死亡した従業員(以下、「A」とします。)に「業務上の事由」が認められた理由は、①飲み会の参加までの経緯、②飲み会後、業務再開のために会社に戻らなければならなかった事情、③飲み会後、研修生を住居まで送ることとなったことの一連の事情から、会社がAに「職務上」、「一連の行動をとることを要請していたもの」と評価できたためです。
「職務上」「一連の行動をとることを要請していたもの」と評価された理由
①飲み会の参加までの経緯および②飲み会後、業務再開のために会社に戻らなければならなかった事情
Aは、翌日に迫った業務の期限を理由に、社長業務を代行していた上司(以下、「上司」といいます。)からの飲み会参加の個別の打診を断りました。しかし、上司は、「今日が最後だから」などと、Aに対し強い意向を示していました。その一方で、翌日に迫った業務については、提出期限の延期等の措置は執られず、むしろ飲み会終了後、その業務に上司も加わる旨伝えられていたのです。
これらの事情により、Aは、
●上司の意向等により飲み会に参加しないわけにはいかない状況 に置かれ、
●結果として、飲み会の終了後に業務を再開するために事業場に戻ることを余儀なくされた
といえるため、会社側が、Aに対し、職務上、これらの一連の行動をとることを要請していたものであると評価されました。
さらに、本件の飲み会は、連携会社の関係強化等に寄与するものとして会社で企画された行事の一環であり、従業員ら全員に参加が要請されていました。飲み会の費用も会社の経費から支払われていました。
つまり、飲み会自体が会社の事業活動に密接に関連するものであるといえたのです。
③飲み会後、研修生を住居まで送ることとなった事情
しかし、飲み会の参加と事業場への帰還が職務上要求された「業務」といえたとしても、今回Aが死亡する原因となった交通事故は、飲み会の参加者を自宅に送る途中で起こったものです。そうであれば、会社から要請されたものではないように思えます。
この点、本件では飲み会後、上司が、研修生らを、会社所有の乗用車に乗せて、自宅まで送る予定でした。ところが、飲み会の会場から見て、職場と研修生らの自宅がおおむね同じ方向であったため、Aが上司に代わってこれを行ったことで、Aが会社から要請されていた一連の行動の範囲内であると判断されました。
Aは、会社により、その事業活動に密接に関連するものである飲み会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、職場における自己の業務を再開するため会社が所有する乗用車を運転して職場に戻るにあたり、併せて上司に代わり研修生らを自宅まで送っていた際に交通事故に遭ったものということができるから、Aは、交通事故の際、なお、会社の支配下にあったたというべきであるとされています。
なお、判例中、Aが会社の支配下にあったことを否定しうる消極事情として、飲み会が職場の外で開催されたこと、アルコール飲料が供されていたこと、研修生らを自宅まで送ることが上司の明示的な指示を受けてされたものではないこと等が挙げられています。今回の事例では、これらの消極事情があったとしても、なおAが会社の支配下にあったと判断されましたが、個別の事案によっては、これらの消極事由が重視されることもあるでしょう。