ワタミの過労自殺裁判に関して
酒屋チェーン大手「ワタミ」の子会社で、当時、正社員として働いていた26歳の女性が過労で自殺したとして、ご遺族が損害賠償を求めていた裁判で、会社側がおよそ1億3300万円を支払うという内容で、平成27年12月8日、和解が成立しました。
新聞報道等によれば、被害者の女性の方は、平成20年に正社員として入社し、そのわずか2か月後に自殺されたそうです。
この事件で、ご遺族は、1か月間に100時間を超える残業などによる過労死だったとして、会社側に損害賠償を求めて提訴していました。
会社側は、自殺について、過労が原因だと認めてご遺族に謝罪するとともに、1億3300万円あまりの損害賠償を支払うことになりました。
また、会社側は、平成20年以降に入社した社員に未払いの賃金の分などとして一律2万円あまりを支払い、残業時間の削減に努めるなど再発防止策を講じることを条件に和解したということです。
この事案のように、過労で従業員が自殺した場合、会社は安全配慮義務(民法415条、労働契約法5条)に違反した、又は、不法行為に基づく使用者責任(民法715条)として、損害賠償責任を負うことがあります。
安全配慮義務とは、労働者を業務に従事させるに当たり、労働者の生命・身体・健康を守るべき義務のことをいいます。
近年、従業員が過重労働により心身のバランスを崩し、過労死に至ってしまうケースが増加しており、裁判では、会社の安全配慮義務違反が認められる場合があります。
もちろん、安全配慮義務も無制限に認められるものではなく、使用者に過失があることが前提となります。安全配慮義務違反の過失とは、①結果の予見可能性があり、②結果の回避義務が認められることをいいます。
また、安全配慮義務違反と損害との間に相当因果関係が必要となります。
この因果関係の具体的な認定方法として、ワタミの事案のような過労自殺事案では、実務上、行政通達(心理的負荷による精神障害の認定基準について・平成23年12月26日基発第1226号第1号)が重要です。
この認定基準は、精神障害の労災請求事案について、行政が業務上か否かの判断指針となる基準を定めたものです。したがって、本来、過労自殺の事案において、裁判所を拘束するものではありません。
しかし、この認定基準は、最新の臨床経験上の知見を踏まえて作成されたものであり,安全配慮義務違反等を理由とした損害賠償請求における相当因果関係の判断においても、合理性を有するものと考えられます。したがって、裁判においても、この認定基準は参考にされています。
認定基準では、対象となる疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による「強い」心理的負荷が認められるということが要件の一つとなっています。
そして、この「強い」心理的負荷が認められるか否かについて、具体例としては以下のようなものがあります。
・発病直前の連続した2か月間に、1月当たり約120時間以上の時間外労働があった
・発病直前の連続した3か月間に、1月当たり約100時間以上の時間外労働があった
上記は一例ですが、ワタミの過労自殺の事案も、1か月間に100時間を超える残業などによる過労死だったとして、会社を提訴しています。
ワタミの事案だけではなく、使用者に損害賠償義務が認められた場合、賠償額は、数千万円から数億円に上る可能性があります。
今回のような事案を未然に防止するために、会社としては、労働者の勤務時間管理を適切に行ない、行き過ぎた長時間労働とならないように注意が必要です。
また、長時間労働のみならず、企業にはメンタルヘルス対策が求められています。
メンタルヘルス対策について、くわしくはこちらをごらんください。