安全配慮義務違反の代償は?【損害賠償請求の裁判例を弁護士が解説】
企業が安全配慮義務違反を問われた場合、損害賠償責任を負うことになります。
この賠償責任は労災保険で支払われるものを超えてしまうため、慰謝料といった損害を支払わなければならなくなり、場合によっては数千万円に上るリスクもあります。
安全配慮義務違反と損害賠償
企業が安全配慮義務に違反したと判断された場合、従業員からの損害賠償請求を受ける可能性があります。
企業の中には、労災として処理すれば、労災保険から従業員に補償されるため、企業が従業員に支払うものはないとお考えかもしれません。
しかしながら、その考えは誤りです。
安全配慮義務違反が問題となる場合、従業員から企業に対して、以下のものを請求する可能性があります。
- 治療費
- 交通費
- 休業損害
- 逸失利益
- 慰謝料
- 後遺障害慰謝料
このうち、労災保険が支払いの対象としているのは、治療費、交通費、休業損害、逸失利益です。
つまり、慰謝料、後遺障害慰謝料といった慰謝料については、そもそも労災保険で補償の対象となっていません。
したがって、従業員としては、労災保険で補償されない慰謝料の部分を企業に対して請求してくる可能性が十分にあるのです。
また、治療費についても、例えば、歯のインプラント治療といったもののように、保険の適用対象外の治療(自由診療)はやはり労災保険では補償してもらえません。
そこで、治療費の差額について請求される可能性もあります。
さらに、休業損害については、労災保険で補償されるのは平均賃金の60%です。
つまり、40%の部分については、労災保険ではカバーできないため、従業員としては企業に請求することになるのです。
後遺障害の逸失利益についても、労災保険では等級に応じて支給される日数が決まっています。
しかしながら、後遺障害の補償については、労災保険で補償される期間では到底不十分なケースが多く、ここでも従業員が企業に対して損害賠償請求を起こすリスクが潜んでいます。
このように、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を受けると企業は労災保険以上の対応をしなければなりません。
後遺障害慰謝料の相場(目安)
上記のうち、後遺障害慰謝料については、労災保険の後遺障害等級と似た制度を設けている交通事故の後遺障害慰謝料が参考になります。
交通事故によって後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料は、認定された等級に応じて以下の表が目安となります。
1級 | 2級 | 3級 | 4級 | 5級 | 6級 | 7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
8級 | 9級 | 10級 | 11級 | 12級 | 13級 | 14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
1級が一番障害の内容が重いものになりますが、慰謝料も 2800万円が目安となっており、非常に高額です。
一番程度が軽い14級でも後遺障害の慰謝料が 100万円を超えています。
先ほど解説したとおり、こうした慰謝料の部分が労災保険ではカバーされていませんので、企業にとっては、大きな負担となることがよくわかります。
過去の裁判例
実際に過去の裁判例でも以下でご紹介するように、数千万円ないし1億円を超える損害賠償が企業に課されたものもあります。
この事案では、知的障害者であった労働者がリネン類の洗濯類を業務とするクリーニング工場に勤務していたところ、業務用の連続式大型自動洗濯・乾燥機に巻き込まれて死亡したという労災事故が発生しました。
裁判所は、労働者側の過失割合を2割と認定した上で、雇用していた企業に約4500万円の賠償を認める判決が出されました。
この事案は、近時問題となっている長時間労働によるうつ病の発症というケースでした。
労働者が、過剰な長時間労働、深夜労働により、うつ病を発症し自殺したという事案において、休日も含め、平成3年1月から同年3月までは4日に1度の割合で、同年4月から同年6月までは5日に1度の割合で、同年7月および8月には5日に2度の割合で深夜2時以降まで残業していたという慢性的に深夜まで残業している状態であった事実を裁判所は認定し、長時間労働(残業)と自殺との因果関係を認めました。
その上で、企業に対して約1億2000万円の賠償を認めています。
まとめ
このように企業に対する安全配慮義務違反の損害賠償請求は、後遺障害が認定されるようなケースや死亡したようなケースの場合、数千万円ないし1億円を超えるような金額に上るリスクがあります。
従業員を雇用して業務に従事してもらう以上、何らかの労災事故というのは起こりえますし、きちんと残業時間をマネジメントしておかなければ、長時間残業が恒常化してしまう危険性もあります。
したがって、企業としては、工場やオフィスの安全管理や残業時間をはじめとする労務管理を適切に行い、安全配慮義務に違反しないように気をつけておくことが重要です。
また、実際に従業員から請求を受けるリスクが出てきた場合には、専門の弁護士に早めにご相談されることをおすすめいたします。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。