うつ病と会社の安全配慮義務
従業員が長時間労働や過重労働、ハラスメントなどを理由にメンタル面で不調を来し、うつ病を患うケースがあります。
企業は雇用する従業員に対して安全配慮義務を負っていますが、この安全配慮義務の中には、メンタルケアといった心の健康への配慮義務も含まれています。
したがって、従業員がうつ病になった場合、企業の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
うつ病による体調不良
仕事をする上で、健康は非常に重要です。
体調不良の状態では、生産性が上がらないことはもちろん、場合によっては、そもそも仕事をすることができず、休職という事態に至ることがあります。
現代社会はストレス社会といわれており、その中で、心の病であるうつ病を患う方が多くなっています。
企業としても費用と時間をかけて採用している従業員がうつ病で勤務できないという事態はできるだけ避けたいところでしょう。
したがって、企業は法律的な問題を抜きにしても、従業員のメンタルケアを行う必要性があります。
安全配慮義務とは
組織論の観点だけでなく、企業は法律的にも従業員のメンタルケアを行わなければなりません。
なぜなら、企業は従業員に対して「安全配慮義務」という義務を負っているからです。
安全配慮義務とは、労働者を業務に従事させるに当たり、労働者の生命・身体・健康を守るべき義務のことをいいます。
ここでいう、「生命・身体・健康」という中に心の健康も含まれていると考えられています。
もっとも、20世紀の時点では、安全配慮義務に関しては、心の健康についてそれほど重視されていませんでした。
もっぱら、製造業や建設業を中心とした労働者の身体のけが(労災事故)を未然に防止するための労働環境の整備という側面で検討されることが多かったのです。
しかしながら、特に21世紀に入り、従業員が長時間労働や過重労働を原因として、心身のバランスを崩し、休職したり、最悪のケースでは過労自殺にいたってしまうケースが増加しています。
こうした背景もあり、安全配慮義務については、現在ではメンタルケアも含めた社員の心身の健康を確保することを含んでいると解釈されるに至っています。
安全配慮義務の具体的内容
安全配慮義務と一口にいっても、企業が具体的にどのような措置を従業員に対して講じなければならないかについては、個別の事情によります。
参考にすべきは過去の裁判例等ですが、うつ病により従業員が自殺した事例で、安全配慮義務の内容について、以下のように裁判所が判断した例があります。
- 通常時以上に健康状態、精神状態等に留意し、過度な負担をかけ心身に変調をきたして自殺をすることが無いよう注意するべき義務
- 病院側は研修医の業務継続が困難と考え、異動を検討していたのであるから、その時点で研修医に休職を命じるか、業務負担の大幅な軽減を図るなどの措置をとるべき義務があった
ポイントとしては、①従業員のメンタル状況の定期的な把握と②把握した状況に応じた個別のケアになります。
まず、法整備が進んだストレスチェックや従業員の就労状況(残業時間が長くないかどうかや急な休みが多くなっていないかどうか、生産性が極端に落ちていないか)から従業員に変わった点がないかどうか上司が定期的にチェックすることが大切です。
その上で、気になる従業員については、個別に面談を行い、フォローをします。
必要があれば、リフレッシュ休暇などの一時的な休暇を有給休暇も使って与えたり、休職制度を利用させたり、産業医との面談を行ってもらったりといったサポートが必要になります。
このように、安全配慮義務の具体的内容は、個々の事業場によって異なり、その判断には専門的知識が必要です。
安全配慮義務の具体的内容について、詳しくは、メンタルヘルス専門の弁護士にご相談ください。
うつ病で安全配慮義務違反を問われたら
従業員がうつ病になったことについて、企業に安全配慮義務違反が問われてしまった場合、従業員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。
とりわけ、長時間労働が原因でうつ病となり、過労自殺してしまったような事案では、賠償金は数千万円〜1億円を超える金額にのぼる可能性がでてきます。
また、マスコミなどで取り上げられ、社会的にも企業にとってマイナスなイメージを与えてしまうことになりかねません。
うつ病も労災保険の対象となっているため、労基署の調査を受けたり、労災認定されると是正勧告を受けたり、最悪のケースでは刑事訴追されるリスクもあります。
このように、従業員のメンタル面での配慮は近年ますます重要な労務管理の一つとなってきています。
メンタルヘルスについてお困りのことがあれば、労務管理を専門とする弁護士にご相談の上、アドバイスを受けながらマネジメントを行うことをおすすめいたします。
メンタルヘルスに関するよくある相談はこちらをご覧ください。
弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者
専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。