メンタルヘルス対策とは|企業は何をすればいい?【弁護士解説】
メンタルヘルス対策には「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。
このページでは、企業に必要なメンタルヘルス対策や4つのケアなどついて弁護士が詳しく解説いたします。
メンタルヘルスとは
メンタルヘルスとは、精神・心の健康のことをいいます。
うつ病などの、いわゆる「こころの病気」が典型的なメンタルヘルス不調の状態とされており、会社では従業員がメンタルヘルス不調に陥らないよう意識する必要があります。
特に近年、職場におけるメンタルヘルス問題は深刻化しているといわれています。
メンタルヘルス対策は法的義務
最近の厚生労働省の調査結果によれば、1年間(令和2年11月1日から令和3年10月31日までの期間)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%となっており、過去のデータと比較して増加傾向にあります。
引用:令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況|厚生労働省
年々深刻化するメンタルヘルス問題に対処するため、平成26年6月には、メンタルヘルス対策の充実、強化を目指し、労働者のストレスチェックを義務化する内容を盛り込んだ、労働安全衛生法の一部改正法案が成立しています。
これにより現在、従業員が50人以上所属する全事業所に、ストレスチェックを実施することが義務付けられています。
第六十六条の十
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
さらに、厚生労働省は、労働安全衛生法(70条の2、69条)に基づいて、従業員の「心の健康の保持増進のための措置」(メンタルヘルスケア)が適切かつ有効に実施されるよう、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を公表しています。
引用:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~|厚生労働省
第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。(健康の保持増進のための指針の公表等)
第七十条の二 厚生労働大臣は、第六十九条第一項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
2 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導等を行うことができる。
このように、会社におけるメンタルヘルス問題は、現在、国を挙げて取り組まれている重要な問題になっています。
メンタルヘルスでよくある相談内容について、こちらのページでまとめています。
ぜひ合わせてご覧ください。
企業がメンタルヘルス対策を推進すべき3つの理由
上記のとおり、ストレスチェックは事業場の従業員数が50名以上の企業に義務付けられています。
しかし、50名未満であっても、以下の理由から、企業はメンタルヘルス対策を推進していくべきです。
生産性の低下
メンタル不調の従業員は、十分に仕事をこなすことが難しくなります。
また、その従業員をサポートする周囲の同僚、上司も対応に追われるなどして、会社全体の生産性が低下することが懸念されます。
損害賠償リスク
企業は雇用する従業員に対して安全配慮義務を負っていますが、この安全配慮義務の中には、メンタルケアといった心の健康への配慮義務も含まれています。
したがって、従業員がメンタル不調になった場合、企業の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
例えば、従業員がうつ病となり、過労自殺してしまったような事案では、賠償金は数千万円〜1億円を超える金額にのぼる可能性がでてきますので注意が必要です。
社会的な信用失墜のリスク
社内で、メンタルヘルス問題が発生すると、訴訟に発展する場合があります。
仮に訴訟になった場合、その事実が取引先企業に知られてしまう可能性があります。
また、従業員の士気の低下なども懸念されます。
メンタルヘルス対策のポイント!
メンタルヘルス対策のポイントは何でしょうか?
メンタルヘルスケアには大きく3つのポイントがあるとされています。
まず、一次予防として、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策です。
そして、二次予防として、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う対策です。
最後に、三次予防として、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う対策です。
以下で、それぞれのポイントについて見ていきましょう。
未然に防ぐ
まず、大事なのが、従業員がメンタルヘルス不調にならないように、未然防止することです。
例えば、従業員自らがストレス解消などのセルフケアを行えるように、会社が研修・指導を行うことが考えられます。
また、従業員にストレスを与えすぎないように職場環境を常に改善することも考えられます。
そして、従業員のストレスチェックも重要です。
ストレスチェックを行うことで、職場環境のどのようなところに改善の必要性があるかを会社として把握することができ、それとともに、従業員や会社全体にメンタルヘルスケアの重要性を意識させることにつながります。
早期発見する
次に、メンタルヘルス不調になった従業員を早期に発見して、適切に対応することも重要です。
メンタルヘルス不調に気付きやすいのは誰よりも、従業員本人です。
そのため、重要なのは、従業員本人が不調に気づいたときのための相談窓口を設置することです。
相談があった場合には、必要に応じて産業医と従業員との面談を手配するなど、適切な措置をとることになります。
うつ病を早期発見する方法について、こちらのページで説明しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
復職を支援する
メンタルヘルス不調で休職した従業員に対して、スムーズに職場復帰できるように支援することも、重要です。
メンタルヘルス不調で休職した従業員本人は、休職前と同様のストレスにさらされてしまう不安に加えて、同僚や上司に迷惑をかけてしまったことを気に病んでしまうなど、今まで以上のストレスを抱えてしまう事も少なくありません。
そういった従業員を支援し、メンタルヘルス不調の再発を招いてしまわないように、予防を行うことが重要です。
具体的には、メンタルヘルス不調に陥った問題を解消することに加えて、復帰に向けたプロセスを明確に定めて、復帰に向けた見通しを従業員と会社とで共有することが重要です。
厚生労働省では、以下の5ステップに分けて職場復帰支援の流れを説明しています。
- 第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア
- 第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
- 第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
- 第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
- 第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
このようなステップを経て職場復帰に至るようなルールづくりが望ましいです。
引用元:職場復帰支援の手引き|厚生労働省
メンタルヘルス対策のための就業規則づくりについて、こちらのページでまとめています。
ぜひ合わせてご覧ください。
職場復帰支援のためなどに導入される「リハビリ勤務制度」については、こちらのページでまとめています。
まとめ
ポイント | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
一次予防(未然防止) | メンタルヘルス不調を未然に防ぐ |
|
二次予防(早期発見) | メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う |
|
三次予防(復職支援) | メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う |
|
企業に必要なメンタルヘルス対策
ストレスチェック制度
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に従業員が記入し、それを集計・分析することで、従業員のストレス状態を調べる検査です。
前述の通り、労働安全衛生法が改正され、 50人以上の事業所では、2015年12月から、毎年1回、この検査の実施が義務付けられています。
ストレスチェックは、会社にとって従業員のストレス状態を把握してその結果をもとに職場環境の改善に役立てられる点で有用なツールです。
さらに、従業員自身にとっても、気づかぬうちに蓄積しているストレスを知る貴重な機会になり、メンタルヘルス対策として大変有用です。
相談窓口の設置
相談窓口の設置もメンタルヘルス対策として重要です。
特に、不調を感じた従業員が、自発的に相談窓口へ相談することで、メンタルヘルス不調を早期に発見し、悪化を予防することができます。
単に、形式的に相談窓口を設置するだけではなく、窓口の存在を会社全体に知らしめて、いざというときに従業員が相談しやすい環境を作ることも重要です。
また、従業員がメンタルヘルス不調を申告しづらいことも考えられますので、体調不良で休みがちの同僚や部下がいれば周りの従業員が異変に気付けることも重要です。
特に管理職の従業員に対しては、研修などを行って十分教育する必要があるでしょう。
社内研修の実施
メンタルヘルスケア対策には、社内研修も欠かせません。
従業員全体に向けてセルフケアの方法を指導する研修、職場復帰支援についての社内ルールの理解を深めるための研修、管理職向けに部下のメンタルヘルスケアについての講習を行う研修など、研修といっても多岐にわたります。
会社ごとに、特に必要性が高いと思われる研修を見極めて、優先順位をつけて研修プログラムを組むことが重要になるでしょう。
就業規則を整備する
企業がメンタルヘルスに適切に対応するためには、就業規則を的確に整備しておく必要があります。
現在、私傷病についての休職制度規定を置いている会社でも、その規定がメンタルヘルス問題に対応できるものかどうか、いま一度確認しましょう。
従来の私傷病休職制度は、けがやメンタルヘルス以外の病気を念頭に規定されていることが多く、従前の規定ではメンタルヘルス問題に対応できないことがしばしば見受けられます。
そのため、就業規則を整備する際には、メンタルヘルス問題に精通した弁護士に相談の上、慎重に進めていかれることをお勧めいたします。
メンタルヘルス対策の4つのケア
メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。
これら「4つのケア」の内容について見ていきましょう。
セルフケア
セルフケアとは、従業員が自らメンタルヘルスケアを行うことを言います。
会社としては、従業員が十分なセルフケアを行えるよう、社内研修、情報提供を行うなどの支援をする必要があり、ストレスチェックの実施もこの一つです。
なお、会社の管理職層の従業員についても、セルフケアは重要です。
管理職層は、その責任の重さから特にストレスを抱えてしまいがちです。
会社としては、セルフケアの対象として管理職層を含めて推進するように心がけましょう。
ラインによるケア
「ラインによるケア」とは、管理職の従業員(上司)が、部下のメンタルヘルスをケアすることです。
まず、上司は、部下からの相談を受けるようにし、部下のメンタルヘルスケアに努める必要があります。
部下にとって、日常業務で抱える悩みやストレスを相談する先となるのは、通常、直属の上司です。
そこで、上司としては、部下からの相談を日頃オープンに受け止めるとともに、部下の抱える悩みやストレスの原因を取り除けるよう、部下とともに考える必要があります。
また、日頃の部下を観察し、部下がいつもと違う素振りを見せている場合には、部下の異常にいち早く気づくことも重要です。
例えば、以下のような部下の様子には注意を払うことが必要です。
「いつもと違う」部下の様子
- 遅刻、早退、欠勤が増える
- 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
- 残業、休日出勤が不釣合いに増える
- 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
- 業務の結果がなかなかでてこない
- 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
- 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
- 不自然な言動が目立つ
- ミスや事故が目立つ
- 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
さらに、不調により休職した従業員の職場復帰支援においても、上司の役割は大きいです。
従業員とのコミュニケーションを丁寧に行い、従業員がスムーズに復帰できるようにケアすることが必要です。
会社としては、管理職の従業員を適切に配置し、研修によって以上のような役割を全うできるように支援する事が重要です。
事業場内産業保健スタッフなどによるケア
従業員本人や上司によるケアだけではどうしても専門的な知見が不足し、ケアが行き届かないことも考えられます。
そのため、事業場内産業保健スタッフ等の協力も重要になります。
「事業場内産業保健スタッフ等」とは、産業医、保健師、人事労務管理スタッフ、メンタルヘルス推進担当者などの総称です。
事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるように、従業員やその上司に対する支援を行うとともに、具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案や、職場復帰における支援などの局面において中心的な役割を担うのが一般です。
事業場外資源によるケア
さらに、メンタルヘルスケアの専門知識を有する外部の機関やサービスも積極的に活用していきましょう。
特に、会社内での相談を希望しない従業員に対しては、外部の機関に相談対応・ケアを依頼することが考えられます。
会社内の資源には限りがありますので、外部の多様なサービスをうまく利用していくことが大切です。
まとめ
このページでは、メンタルヘルスケア対策について、詳しく解説しました。
心の問題は、わかりやすい答えがないことも多く、会社としては大変悩ましい問題です。
事前の予防策がとても重要になりますので、以上の解説を参考に、社内ルールの整備などを積極的に推進するようにしましょう。
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メンタルヘルスケアに関するお悩みをお持ちの場合には、当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。