労働裁判のポイントと対策【弁護士が徹底解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

労働裁判とは

裁判や弁護士労働裁判とは、裁判所に係属する事案のうち、主たる争点が労働問題に関する事案をいいます。

従業員(労働者)が会社(使用者)の労働法令違反に対して、訴訟を提起する場合がほとんどです。

会社も従業員に対して、訴訟提起は理屈の上では考えられます。

労働裁判で多いのは、不当解雇や未払い残業代、ハラスメントの損害賠償事案です。

そのため、従業員が訴訟提起するケースが多い傾向です。

なお、訴訟を提起する側を「原告」、提起される側を「被告」といいます。

「被告」と聞くと、悪いことをしているイメージを持たれる方が多いですが、99.9%が有罪となる刑事裁判と異なり、民事事件の場合は被告の言い分が認められるケースも多くあります。

似たような言葉に、「労働審判」というものがあります。

この労働審判とは、裁判と異なり、比較的、簡易迅速に解決するためのものです。

労働審判についてはこちらのページをご覧ください。

 

 

労働裁判の内容

訴状のイラスト民事訴訟は、原告が訴状を裁判所に提出することにより開始されます。

訴状には、原告が求める内容や言い分が記載されています。

労働事件の場合、原告の求める内容としては、解雇の撤回(雇用契約上の地位確認)、未払い残業代の請求が典型です。

解雇の撤回を求める場合は、未払賃金も合わせて請求されるのが通常です。

これは、仮に、解雇が無効の場合、労働者が労務を提供できないことについて、使用者側に落ち度があるといえるため、労働者が復職するまでの間の賃金も支払うべき判断される可能性があるからです。

他にセクハラを受けたことによる慰謝料請求や、使用者の安全配慮義務違反による損害賠償請求等も見られます。

 

 

労働裁判の流れ

労働者側の訴状に対して、会社側は、答弁書を提出します。

答弁書には、労働者の請求や言い分について、認めるか否か、また、使用者側の反論等を記載します。

例えば、ケースの例では、労働者の求める残業代請求を認めるか、それとも否定するか、また、使用者側の反論としては、確かに、時間外労働はあったが、すでに支払い済みである、などが想定されます。

使用者側の主張に対して、労働者側は次回の第2回期日までに、再反論を書面(このような書面を準備書面といいます。)で行います。

また、その準備書面に対して、使用者側は、第3回期日までに再々反論を書面で行ったりします。

裁判のイラストこのように通常、民事訴訟においては、労働者側・使用者側がそれぞれの主張を繰り返し行います。

裁判所は当事者の主張から当該事件の争点と証拠の整理を行います。

そして、当事者間に争いがある事実については、証拠資料(書証)の取り調べ、証人尋問、当事者尋問などの証拠調べを行い、事実認定を行います。

そして、最終的に裁判所の判断として判決を言い渡します。

 

 

労働裁判の特徴

平均審理期間

時間のイメージ画像近年、労働訴訟の平均審理期間は長期化しています。

統計(裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回))によると2018年における労働関係訴訟の平均審理期間は、14.5か月となっています。

つまり、解決までは1年以上もの長期間を要します。

もちろん、平均審理期間なので、案件によって長短があります。

しかし、全体の民事訴訟の場合、平均審理期間が9か月であることから極端に長い傾向にあるといえます。

このように長期化するのは、労働訴訟が争点や証拠が多岐にわたり複雑化する傾向があること等が影響していると思われます。

 

和解による解決

和解のイメージ画像裁判とはいっても、実際には当事者の譲歩による和解によって解決することは多く、これは労働事件にも当てはまります。

むしろ、労働事件は他の民事訴訟よりも和解で解決する確立が高い傾向にあります。

すなわち、統計(裁判の迅速化に係る検証に関する報告書・第8回)によれば、判決まで行くのは、全体の民事訴訟の場合が41.4%であるのに対して、労働関係訴訟の場合は23.1%です。

他方、和解で解決するのは、全体の民事訴訟の場合が37.1%であるのに対して、労働関係訴訟の場合は63.4%となっています。

 

以上から、労働事件は比較的に長期化すること、和解での解決が多いという特徴があげられます。

 

裁判が公開されていること

労働裁判は、口頭弁論や判決の手続きは公開の法廷で実施されます。

また、証人や当事者本人を呼んで、質問する手続き(尋問)についても、誰でも見ること(傍聴)ことが可能です。

そのため、会社の不備や違法行為など、信用に関わる事実が外部に知られてしまう可能性があります。

また、判決が言い渡されると、判例となりますが、その企業の名称が事件名として残る可能性もあります。

有名な事案

  • 電通事件
  • 三菱樹脂事件
  • 日産自動車事件
  • 三菱重工長崎造船所事件
  • 全日本空輸事件
  • ネスレ日本事件
  • 日新火災海上保険事件
  • 高知放送事件
  • 日本アイ・ビー・エム事件

これらは、弁護士などの法律の専門家ではなくても、法学部の学生などは目にする可能性がある裁判例です。

したがって、裁判が終わっても、会社の名前が事件名として残る可能性が洗うことを意識すべきでしょう。

以上から、仮に和解ではなく判決となった場合、企業は、法令違反等が外部に知られてしまうことで、社会的信用の失墜、という事態を招く可能性があります。

 

 

労働裁判のポイント

上記の労働裁判の特徴を踏まえると、企業が押えておくべき労働裁判のポイントは以下とおりとなります。

裁判を回避する

裁判例労働裁判は、長期に及ぶ可能性が高いため、企業の担当者の負担が大きくなる可能性があります。

すなわち、いくら弁護士に任せるとはいえ、裁判で勝つためには、様々な資料を収集する必要があります。

これらは、弁護士の指示のもと、担当者の方が自ら収集することになるでしょう。

また、労働裁判は、他の従業員の方の士気にも影響するかもしれません。

従業員の士気の低下は企業の業績にマイナスに作用する可能性があります。

さらに、企業の法令違反が外部に知られてしまうことで、顧客や取引先から信用を失う可能性があります。

特に、BtoCの企業の場合、顧客のイメージは大切な企業価値であり、業績の悪化を招きかねません。

以上から、労働裁判は、できるだけ回避することが最大のポイントとなります。

 

できるだけ早く解決する

すでに裁判が始まった場合、回避することはできません。

この場合、できるだけ長期化させないようにするというのが次善の策となります。

 

会社に非がある場合は和解をする

労働者会社に非がある場合、できるだけ判決は避けるべきです。

すなわち、和解による解決を目指すことがポイントとなります。

和解の場合は、判決という形では記録が残りません。

そのため、外部に知られる可能性が少なくなるでしょう。

もっとも、会社に非がなく、従業員側が問題社員であるケースも多くあります。

このような場合は、徹底的に戦うことが基本となります。

 

 

労働裁判の対策

見通しを適切に立てる

給料のイメージ画像労働問題では、できるだけ裁判を避けること、また、すでに裁判になっている場合は早期和解を目指すことが重要です。

そのために大切なことは、「仮に判決が出たらどのような結果になるか」という見通しを適切に立てることです。

例えば、解雇の裁判(雇用契約上の地位確認)であれば、仮に判決となった場合、裁判所が解雇を有効と認めるか、それとも無効と判断するか、という見通しです。

また、未払い賃金等の金銭請求の事案であれば、仮に判決となった場合、請求が認められるか、また、その場合の額はどうなるか、という見通しです。

 

示談交渉・裁判上の和解を成功させる

同行見通しを立てたら、次に、示談交渉を行います。

示談が成功すれば、裁判を回避できるからです。

すでに裁判となっている場合は、早期和解を試みます。

適切に見通しを立てることができなければ、示談や和解にも影響します。

例えば、解雇の事案で、到底解雇が認められない状況なのに、解雇有効と判断してしまったとします。

この場合、そもそも、示談や和解を積極的には行わないようになるでしょう。

そして、判決では不当解雇と認められ、会社が敗訴することとなります。

また、未払い残業代の事案では、本来、100万円を支払うべき状況で、50万円程度という間違った見通しを立ててしまったとします。

この場合、会社から 50万円を従業員側に提案しても、示談に応じてくれず、裁判となる可能性があります。

 

専門性が高い弁護士に依頼する

弁護士イメージ画像具体的な状況において、「適切な見通しを立てること」「示談や早期和解を成功させること」は弁護士であれば誰でもできるわけではありません。

弁護士は法律の専門家ですが、すべての法令に精通するのは不可能です。

そのため、まずは労働法に強い弁護士に相談することが重要です。

労働法に強い弁護士の探し方としてはインターネットなどで検索すると良いでしょう。

ホームページを見ると、その弁護士の専門分野・注力分野などが掲載されている場合が多くあります。

また、ホームページに労働法についての書籍の執筆情報や講演活動の情報などが掲載されていると、労働問題に注力していることがわかるでしょう。

 

 

労働裁判のまとめ

以上、労働裁判について、手続きの流れや、労働裁判の特徴、ポイントと対策等を詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

裁判は、弁護士の専門分野ですが、労働問題は特殊な傾向があります。

そのため、労働裁判では、労働法令に精通した弁護士の助言を受けながら戦うことをお勧めいたします。

デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。

まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

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執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。




  

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