労働基準監督署に通報されたら?労基署対応を徹底解説
労基署に通報されたら、会社に立ち入り調査が入り改善指導などが行われます。
改善指導を受けてもなお改善されていないと判断された場合は、最悪の場合、送検されて起訴され、罰金や懲役刑を受ける可能性もあります。
このような会社側の不利益を考えると、労基署に通報されたらその案件を放置しておくのは基本的にNGです。
本記事では、労基署に通報された後の流れや対応方法について、労働問題を多く扱う弁護士が解説いたします。
また、労基署に通報されないための予防策についても解説しています。
労基署対応について詳しく知られたい方は、ぜひ最後までご覧になってください。
労働基準監督署に通報されたらどうなる?
従業員が労基署に通報し、労働関係法令に違反していて調査が必要だと判断された場合は、労基署はその事案についての調査を始めます。
従業員が労基署に通報し、労基署が調査することを申告監督といいます。
必ずしも労基署が調査をするわけではないので、従業員の言い分を前提にしても労働関係法令に違反していないと考えられる場合や事案が軽微な場合などは、調査がされない可能性もあります。
他方で、労働関係法令に違反していることが明らかで放置することができないと判断された事案は、下記でも説明するとおり、立ち入り調査等が行われます。
立ち入り調査後、是正勧告等を経ても違反の内容が是正されていない場合は、送検され、最悪の場合、会社とその代表者が起訴されて有罪判決を受けることがあり得ます。
労基署に通報された後の流れ
従業員が労基署に通報した後の流れは、一般的に以下のようになります。
従業員が労基署に通報
従業員は、労働基準法等に違反する事実があった場合は、行政官庁又は労働基準監督官に申告することができます(労働基準法104条1項)。
従業員が労基署に通報すれば、労基署が動くきっかけになります。
なお、労基署が調査するきっかけとしては、従業員が通報する申告監督以外には、定期監督や災害時監督があります。
会社への訪問、立ち入り調査
労基署は、通報された内容を精査して調査が必要と判断した場合は、会社へ訪問して立ち入り調査をします。
立ち入り調査の内容としては、事案の内容に応じて、
- 関係者への事情聴取
- 帳簿書類の確認
- 現場検証
などが行われます。
なお、事前に立ち入り調査の通知がある場合は、会社が事前に用意すべき書類が指定されていることがありますので、会社としては指定された書類(例:労働条件通知書、就業規則等)をしっかり準備する必要があります。
文書等による指導(是正勧告、指導票による改善指導など)
立ち入り調査等が行われた結果として、法令違反の事実が認められた場合は、文書等による指導が行われます。
文書による指導については、是正勧告と指導票による指導があります。
是正勧告とは、労基署の監督官が労働関係法令に基づいて行った調査の結果、労働関係法令に違反していることが明らかになった点を指摘し、是正勧告書として会社に勧告指示を出すものです。
労働関係法令の違反に対する警告だと考えればよいでしょう。
労働基準監督署の臨検の方法としては、事前に調査を行う旨の通知がある場合、全く抜き打ちで行う場合、監督署に呼び出される場合などいろいろな形で行われます。
勧告内容には、是正期限が設けられており、是正勧告を受けた会社は、どのように是正したのかを是正報告書として期限までに提出しなければなりません。
是正勧告で法令違反としてよく指摘される事項としては以下の事項が多いようです。
- 残業代の不払い
- 就業規則の未作成
- 雇用時における労働条件の書面による明示違反
- 法定労働時間、変形労働時間制に関する違反、36協定未作成など
- 賃金台帳への労働時間の未記入
上記のことから日々の労務管理において重点を置く項目が見えてくることと思います。
特に、残業代の不払い(サービス残業問題)については、労基署としても是正に力を入れているようです。
指導票とは、労働関係法令に違反はしていないが、改善が望ましいとされる事項について改善を促す書面のことです。
指導票に対しても、原則、改善報告を労基署に対して行う必要があります。
会社からの是正・改善報告
是正勧告書や指導票に記載された指摘事項が改善されたときは、会社から労基署に改善したことを報告します。
報告の方法としては、是正報告書(労基署から渡される書式では、「是正・改善報告書」という表題になっています)に加えて改善していることを示す証拠資料を提出します。
再監督
是正勧告がなされたにもかかわらず、是正報告書を提出しない場合等は、労基署が再度調査することがあります。
この労基署の再度の調査のことを再監督といいます。
調査・指導の終了
労基署の調査が終わり、そもそも問題がないと判断された場合や、是正がしっかり行われたと判断された場合は、その時点で労基署の調査や指導は終了します。
送検
重大事案、悪質事案については、検察官に送致されます。
書類送検が多いですが、被疑者が勾留されている場合は被疑者の身柄も検察官に送致されることもあります。
検察官による起訴・不起訴の判断
送検された場合、検察官は証拠状況や事案の内容など様々な事柄を総合的に考慮して、起訴するか不起訴とするか判断します。
不起訴となれば、特に罰を受けることなく終了します。
起訴となれば裁判に移行します。
裁判・判決
起訴された場合は、裁判が行われ、裁判官が判決を下します。
有罪の場合は、違反した罪に応じて、懲役や罰金などの刑罰があり得ます。
労基署に通報された後の5つの対処法
資料をしっかり準備する
立ち入り調査の前に、労基署から会社に用意してもらいたい資料を指定されることがあります。
立ち会い当日、指定された資料を何も準備していなかったら、労基署の会社に対する印象も悪くなるかと思います。
したがって、指定された資料は必ず当日までに準備するようにしましょう。
なお、当然ですが、資料の改ざんはしてはいけません。
また、要求された資料を作成してなかった場合は、(法令上作成義務があったとしても)素直に作成してない旨を伝えるようにしてください。
- 労働条件通知書(雇用契約書)
- 就業規則
- 労働者名簿
- タイムカードや日報
- 賃金台帳
- 年次有給休暇管理簿
- 36協定
- 健康診断個人票
是正勧告には従う
是正勧告は、行政指導の一種なので、強制力はありません。
もっとも、強制力がないからといって従わないと、最悪の場合書類送検となり、罰せられる可能性もあります。
また、残業代の未払いなど、是正勧告の内容によっては会社に多大なコストが突然発生する場合があり、専門的な見地から早急な対処が必要となります。
資料に反映されていない事情は主張する
労基署が調査に入って様々な資料を入手した後では、会社が労基署の是正勧告に対して対抗する手段はほとんどありません。
しかし、労基署に提出した資料には表記されていないものの、会社としてどうしても主張したい事情もあるのではないでしょうか。
例えば、パソコンのログイン時間を参考に労働時間が計算されている場合は、ログインされていた全ての時間に仕事をしていたのでしょうか。
ログインしたままで席を離れている時間があったかもしれません。
以上のような事情があれば、労基署に主張することも可能です。
労基署の調査が入ったらといって直ちに諦めるのではなく、会社として反論できる事情はないか探すべきです。
労働問題に詳しい企業側の弁護士に早く相談する
労基署対応で重要なのは、指摘されたことを是正し、将来においても違反がないような体制を整えることです。
もっとも、労働基準法をはじめとする労働関係法令は、条文数も多いですし、内容も複雑なのでどのような対策をすればよいかわからない場合も多いでしょう。
したがって、労基署に通報された場合は、素早く弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしてください。
なお、弁護士はそれぞれ得意分野を持っていることが多いです。
そのため、労基署問題について充実した専門的なサポートを受けるためには、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
労基署調査の立ち会いには弁護士に同席してもらう
労基署調査の立ち会いに弁護士に同席してもらうことも検討しましょう。
労基署調査に弁護士が同席するメリットは、以下のようなことが挙げられます。
【労基署調査に弁護士が同席するメリット】
- ① 労基署の職員が指摘する事項が、本当に法令上正しいことを言っているかその場で確認できる
- ② 法的に正しい反論ができる
- ③ 労基署から指摘されたことをどのように改善するか、専門的な見地から提案や助言ができる
- ④ 調査後の是正報告書作成のサポートをしてもらえる
労基署に通報されないために実施すべきこと
雇用契約書や就業規則を整備する(全共通)
労働問題で重要な書面は、雇用契約書や就業規則です。
雇用契約書や就業規則がしっかりしていない会社は、トラブルになる可能性が高いです。
Q 雇用契約書や就業規則はネットで拾ったものだけで大丈夫?
雇用契約書は、ネットで検索すればテンプレートが簡単に手に入る時代です。
また、就業規則についても、ネット上で厚生労働省がモデル就業規則を公開しています。
もっとも、これらの書式はあくまで一般論を記載しているに過ぎず、個別の事情を反映していません。
執筆者は、これまで多くの雇用契約書や就業規則の作成やチェックに携わってきましたが、その会社での特殊性を考慮しないで書式をただ使い回していることが原因でトラブルになっていることをよく見かけます。
したがって、ネットで拾った書式はあくまで参考程度にとどめ、会社の実情等を反映させるように意識して作成してください。
残業代の計算方法が正しいか確認する(残業代関係)
残業代の未払いは、労基署調査の原因になることが多い問題の一つです。
残業代については、計算方法がとても複雑でわかりにくいです。
そのため、残業代を払っていたと思っていても、実は計算方法が間違っていて適切な金額を払えていないということもあります。
対策としては、まずは残業代の計算方法が正しいかどうかを専門家のアドバイスを踏まえながら確認することが必要です。
特に、残業代の基礎単価はどの手当まで含まれるか、残業代の割増率は何パーセントか等は事案に応じて適切な判断が求められます。
また、固定残業代を導入している会社も多いですが、適切な運用方法をしないと後から余計に残業代を支払わなければならなくなることもあります。
固定残業代の運用等については、こちらをご参照いただければと思います。
労働基準法に定められた休憩時間を確保する(労働時間関係)
労働基準法では、休憩時間について、労働時間に応じて次のように定められています(労働基準法34条1項)。
労働時間 | 休憩時間 |
---|---|
6時間以内 | 不要 |
6時間を超え8時間まで | 45分 |
8時間を超える場合 | 1時間 |
最低限、上記の休憩時間を確保する必要があります。
休憩時間は、労働から完全に解放されていることが必要なので、例えば、電話がこない間は休ませておいて電話がきたら対応するなどを行わせてしまうと(これを「手待時間」といいます)、実質は労働していると認定されることになるので注意が必要です。
長時間労働となっている社員はいないかチェックする(長時間労働関係)
長時間労働になっている社員はいないか、タイムカードや日報などを見てチェックするよう心掛けてください。
長時間労働になっている社員に対しては、面談などを行い、メンタルチェックを怠らないようにします。
また、会社としても、過大なノルマを課していないか、課しているとしたらその社員に依存しないような仕組み作りはできないか検討する必要があります。
加えて、残業を許可制にするなどの体制にすると、無駄な残業を抑制し長時間労働が減ることも多いです。
健康診断を従業員に受けさせる(労働安全衛生法関係)
会社は、従業員に対し、原則として健康診断を受けさせる義務があります(労働安全衛生法66条1項等)。
健康診断には、雇入時に行うものや、1年に1回行う定期健康診断などがあります。
これらの健康診断を受けさせていないと、労基署に指摘されてしまうことになります。
労働問題に詳しい弁護士が所属する法律事務所と顧問契約を締結してアドバイスを受ける(全共通)
労基署に通報されないためには、当然ながら労働基準法等の労働関係法令に違反しないようマネジメントしていく必要があります。
しかし、労働分野においても法令遵守は簡単ではありません。
労働問題は、採用段階、労働時間管理、残業代などの賃金問題、ハラスメント、解雇や退職に関する問題など幅広くあり、各々慎重に対応しなければなりません。
そのため、会社としては労働問題に詳しい法律事務所と顧問契約を締結して、随時弁護士に相談できる環境を整備しておくと良いと思います。
また、法律事務所と顧問契約を締結しておけば、雇用契約書や就業規則等の重要書面を気軽にチェックしてもらえるというメリットもあります。
まとめ
労基署は国の機関ということもあり、調査が入ることになったら驚かれる方も多いと思います。
しかし、焦って不適切な対応をすることだけは避けたいです。
会社として不適切であった部分は改め、従業員や労基署に対して誠実な対応をすれば、特に罰を受けることもなく調査が終了することも多いです。
そのため、大事なことは、「迅速に適切な対応をすること」です。
迅速に適切な対応をするために、まずは一度弁護士に相談してみてください。
当事務所は、労基署対応を含む労働事件に特化した労働事件チームがあります。
オンラインなどを用いて全国的な相談対応を行っていますので、労基署対応で悩まれている方はぜひ一度当事務所にお問い合わせください。