ホステスのバイトで採用内定を取消し 日テレ提訴へ
先日、銀座のクラブでホステスのアルバイトをした経験を理由に、日本テレビのアナウンサーの内定を取り消された女子大生が、日テレを提訴したという事件が報道されました。 近年、このような採用内定の取消しをめぐる問題についてよくご相談を受けています。
ここではこの問題について、取り上げたいと思います。
採用内定の法的性質
採用内定は、まだ働いているわけではありませんが、無関係とも言い切れず、中途半端な状態です。そのため両者の法律関係をどう捉えるかが問題となりますが、裁判実務では、「解約権を留保した労働契約」であるという立場がほぼ確立しています。
すなわち、内容内定によって労働契約は成立するものの、採用内定通知書または誓約書に記載されている、内定取消事由が生じた場合は、解約できる旨の合意が含まれており、また卒業できなかった場合も当然に解約できるものであるという法的構成です。
このような法的構成によれば、内定通知書等に記載されている取消事由に該当した場合、採用内定を取り消しても問題ないように思われます。
取消権行使の限界
しかし、裁判実務上、取消権の行使には制限があります。
すなわち、採用内定の取消しは、①客観的合理性、②社会通念上の相当性という要件を満たす必要があります。
経歴詐称の場合
採用内定通知書等に、「採用にあたり提出した書類に虚偽があったとき」は採用内定を取消す旨記載されていることはよくあります。
では、履歴書等の経歴を偽っていた場合、それを理由に採用内定を取り消すことができるでしょうか?
前述したように、採用内定の取り消しは、①客観的合理性と②社会通念上の相当性という要件を満たす必要があります。
そのため、「提出した書類に虚偽」という取消事由も、その文言どおりには受け入れられず、虚偽記入の内容・程度が重大なもので、それによって従業員としての不適格性あるいは不真義性が判明したことを要すると解されます。
例えば、ある特殊な経歴や資格を買われて、採用内定通知を出した後、それが虚偽であったことが判明したとします。このような場合、虚偽の内容・程度が重大であり、上記要件を満たすでしょう。
それでは、今回の日テレの場合はどうでしょうか。
日テレ側は「ホステス経験を申告しなかったのは虚偽申告にあたる」と主張しているようです。
これに対して、新聞報道によると、原告側は「全てのアルバイト歴の申告まで求められなかった」「ホステス経験で清廉性に欠けるというのは偏見」と反論しているようです。
この件に関し、テレビ等の報道では、会社側ばかりが非難されているように感じます。
確かに、ホステスであることをもって、「清廉性に欠ける」という会社側の対応は問題と思われます。適法な職業である以上、このような侮辱的な表現は不適切といえるからです。
ただ、今回のケースでは、労働者側も問題があると思われます。
アルバイトとはいえ、職歴を偽って応募することはよくありません。採用する側とって、履歴書の職歴は、応募者がこれまでどのような経験をしてきたのかを知る手がかりとなります。それを隠すということは、採用する際の判断材料が少なくなってしまうことを意味します。
また、一般に、特定の職歴を隠して応募するのは、採用する側にその職歴が知れると、自己に不利な結果をもたらす可能性が高いことを認識しているからであると考えられます。会社において、自分に不利なことを隠すために虚偽の書類を作成することは、明らかなに非違行為であり、当該従業員に対する信頼を失わせるものです。
事案の詳細な事実関係が不明であり、これ以上の言及は避けますが、今後の裁判の行方がどうなるか、見守りたいと思います。